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青果市場のDX(最終回)〜業界の未来を変えよう 経営戦略に沿ったデジタル導入を〜【全4回連載】

農経新聞社 鹿島 正美 氏

※農経新聞2021年8月30日付より転載

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは「新たなデジタル技術を駆使してビジネスモデルを変革すること」。それだけに「自社の未来図=ビジョン」、そして経営戦略に沿ってデジタルを導入し、取組みを推進することが望まれる。今や地方卸売市場の若手幹部たちが連携し、市場業界のデジタル化、DXを推進しようとする動きも出てきた。これは自社のみならず業界の未来をより良く変えたいとする思いの表れだろう。そして、農水省も食品流通を含む農業のDXを積極的に支援していく。

 まずはDXのステップを確認しよう。「アナログ・物理データのデジタル化(デジタイゼーション)」とプロセスのデジタル化(デジタライゼーション)」による「デジタルシフト」の実現を経て、「ビジネスを変革し、新たな社会価値を創造する(DX)」―これが流れだ。

 青果卸売市場業界を俯瞰(ふかん)すると、基幹システムの入替えを進める企業が増え、また生産者の出荷情報をデータでやりとりする例も見られるなど、「デジタルシフト」が進みつつある。これまで青果市場業界はデジタル化の遅れが指摘されがちだったが、「DXの夜明け前」を迎えているといえる。

 こうした中、業界のDXを加速させようとする動きも。
 地方市場の大手卸会社では、青果市場の相対取引の効率化に向けてシステム会社とともに協議会を設立。また、複数の地方市場卸の若手幹部や仲卸の若手経営者が連携し、今後DX推進の協議会を設立する予定という。青果市場の業者の多くで労務環境が厳しく、産地や販売先への提案が十分にできないでいた。それゆえ利益率が低いという負のループに陥っていた。しかし、次代に向けて変わろうとしている。

 高齢の経営者の中には「デジタル化は怖い、わからない」という人も存在するだろう。しかし、こうした経営者はすぐにでも世代交代をしなくてはならない。それは自社の存続を放棄したことになるからだ。

 経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」では、従来の「レガシーシステム」を使い続ける場合、今後IT技術者の不足から維持が困難となるうえ、維持管理費が高騰。さらには爆発的に増加するデータを活用しきれず、デジタル競争の敗者になるなどと指摘する。こうした点も、社会全体でDXを推進している理由とみられる。

受発注作業の効率化、場内外の物流効率化など市場業者を取巻く課題は多いが、今後に期待

「ペーパーレス化」など6つのプロジェクト

 食品流通のDXは、農水省も支援していく。
 昨年発表した「農業DX構想」では、消費者ニーズに的確に対応した価値を創造・提供する農業への変革を進めるため、デジタル技術を活用した様々なプロジェクトをまとめている。流通に関しては6プロジェクトを計画している。

 このうち「現場でのペーパーレス化推進プロジェクト」は、農産物取引のDXの前提として、生産者団体や市場業者、小売店などの情報のやりとりを「紙からデジタルにするための方策」を検討する。

 「消費者ニーズを起点としたデータバリューチェーン構築プロジェクト」では、農業現場から消費者までバリューチェーン全体のプレーヤーをデータで結びつけ、様々な主体が購買情報等のデータを活用し、消費者ニーズに合った価値の創造や販路開拓に向けて柔軟に連携できる環境および流通の形について検討する。

 「農産物流通効率化プロジェクト」は、農産物輸送の負荷軽減や食品ロスの削減も含めた流通の効率化を目的とする。農業者・産地と流通・小売事業者との接点を拡大し、需要動向・需要予測や、生産計画・収穫予測に関する情報の迅速な共有を可能とするための方策のほか、共同輸送や帰り荷マッチング促進などの方策を検討する。

まずはデジタル化 データ連携等

 農水省のプロジェクトからもわかるように、DXに取組む際には「コードの標準化、デジタル化・データ連携」が欠かせない。

 農水省の大臣官房新事業・食品産業部食品流通課の金澤正尚卸売市場室長は「これまで農産物流通でDXが進まなかった理由は、各段階のプレーヤーでデジタルの導入状況が異なっている点にある」と指摘。各段階で出入荷情報などを共有できるプラットフォームがあれば、入力作業など業務の軽減が可能となり、そのデータをもとに新たなサービスやビジネス創出の可能性もある。

 デジタル化・データ連携でいうと、前回紹介した米子青果(民営地方卸売市場、鳥取県)の例が挙げられる。

 同社では、地場産生産者の翌日の出荷情報を事前に把握することを目的に、出荷情報共有アプリ「fudoloop(フードループ)」を導入。電話でのやりとりなど情報収集のための手間が大幅に削減した。これにより「適正価格」での販売が可能となり、生産者にもメリットをもたらしている。さらにアプリの利用がスーパーまで広がれば、同社の出荷データをもとに販売機会ロスの防止や、より消費者ニーズに合った商品の提供が可能となりそうだ。

 また、「横」の連携も必要。米子青果の場合、fudoloopを使用する生産者が増えれば、地場産の安定供給につながりさらに付加価値販売が可能となる。そうすると生産者はお互い競争相手であり仲間だ。

 市場業者同士も連携することで、産地からの出荷データの標準化や共同配送など、様々な可能性が広がるのではないだろうか。青果市場の価値向上、他の食品産業との競争力強化につなげたい。 (おわり)

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