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倉敷青果荷受組合の経営革新〜パート6名からの新たな挑戦が青果物流通を変える〜

青果流通経営コンサルタント 本田 茂 氏

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1.はじめに(ゴールデンサークル理論)

 皆様、こんにちは。このメールマガジンでは、全国の地方青果市場関係者の皆様に役立つ情報をお届けしています。

 まず、事例紹介の前に、経営者の皆様がこれから経営革新をしていくために必要なヒントになるトピックをご提供しております。今回は「優れたリーダーの共通点」についてお話します。
 「TED」というアメリカの番組をご存じでしょうか? 世界中の何かを成し遂げた人や独創的な生き方をしている方が、観客の前で20分ほどのプレゼンをおこなう番組です。この番組で、アメリカの作家であるサイモンシネック氏がプレゼンされた「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」という動画をご紹介いたします。 20分程度ですので、ぜひご視聴ください。

動画1.サイモン シネック: 「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」
https://youtu.be/qp0HIF3SfI4(YouTubeチャンネル「TED」)
投稿日:2010/05/05  アクセス日:2021/08/10

 まず、サイモン氏は「ゴールデンサークル理論」(図1.)について説明します。一番真ん中の「Why」は企業がなんのために活動するのか?根本の目的です。次の「How」は、製品を売るためにどのような特徴を出すのか?製品の特長や営業方法を指します。一番外の「What」は製品です。多くの企業は外側の「What」「How」に注力を注いで販売しています。ところが、皆さんご存じのApple社は、反対に内側の「Why」から顧客に向けて発信をしています。Apple社の「Why」とは、彼らは自分たちはコンピューター会社ではなく、「世界を変える」という信念を持ち、その延長線上にスマートフォン「iPhone」を開発しています。Apple社の新しい製品を待ち望む顧客の中には、新作が発売される際に徹夜で並ぶような熱烈なファンがいます。顧客は、製品の中身や仕様に反応するのではなく、企業の「Why」を自分自身が信じており、その信じていることをただ行動に示すこと -購買行動を起こす- と講演しています。

図1. ゴールデンサークル理論
人はWhat(何)ではなくWhy(なぜ)に心を動かされる

 優れたリーダーは、会社の存在意義である「Why」を明確にして、全社員に浸透させて行動を促しています。ところが多くの企業は利益を追うあまり、この内側にある「Why」を忘れているというのがサイモン氏の警告です。皆様の市場業界も、元々は「全国の産地を育て、リレー出荷や規格の統一など効率的に、地方から都市に流通を作り上げる」という「Why」があり、社員が市場の垣根を超えて使命感を持って活躍してきたのが今の役員の皆様の時代ではなかったかと思います。各社の中にこの「Why」が明確な魅力的なセリ人が存在していて、産地や買参人の皆様を引っ張っていきました。結果、社員が一丸となり、産地や買参人から協力を受けて利益も後からついていったと思います。しかし現在では多くのリーダーは、社員に売上や利益を追い求め、「What」や「How」ばかりから社員に行動を促してはいないでしょうか?
 経営革新に成功している地方市場のリーダーは、この「Why」が明確であること、リーダー自身が「Why」を率先して実行していること、そして全社員に浸透しているという共通点があります。この「Why」は「経営理念」とも言われます。筆者が各社の経営革新の要因を分析する際に、「経営理念」について触れるのは、このためです。

2.倉敷青果荷受組合の経営革新

(1)倉敷青果荷受組合の概要

 今回の事例は、岡山県の倉敷青果荷受組合を取り上げます。 年間売上高は134億円を計上しており、その中で36%はカット野菜が占めております。従業員は外国人技能実習生も含めて278名となり、グループ企業は同業のクラカコーポレーション、クラカフレッシュ、農業生産法人のクラカアグリの4社で構成され、グループ合計での売上高は188億円にのぼります。

表1. 倉敷青果荷受組合の概要

名称 倉敷青果荷受組合
設立 昭和21年1月(前進の吉田商店昭和7年1月)
代表 理事長 冨本 尚作
資本金 2,700万円
売上高 134億円(グループ合計188.6億円)
[令和2年度]
売上高構成 カット野菜 47.5億円(36%)
野菜 59.8億円(45%)
果実 14億円(11%)
輸入果実 10.8億円(8%)
従業員
(令和3年7月現在)
278名(パート含む)
グループ全体 359名
グループ企業
(売上高)
クラカコーポレーション(42億円)
クラカフレッシュ(12億円)
クラカアグリ(0.7億円)

 グループの沿革(表2.)とグループ売上高推移(図2.)がありますが、平成10年に本格的にカット野菜事業に進出してからは、売上高は右肩上がりで伸長しております。売上高の伸びに合わせて投資を繰り返しており、平成22年には新本社建設、さらに近年では農地所有適格法人クラカアグリの設立や契約産地の荷を貯蔵できる設備を整備していることから、川上対策に力を入れている様子も伺えます。カット野菜部門は元々売上高が1996年(平成10年)の0円から2020年(令和2年)47億円まで増加しておりますが、原料仕入を蔬菜部門で行うため、カット野菜と原料仕入と車の両輪で伸長している様子がグラフから読み取れます。結果、2002年(平成14年)の65.6億円から2020年(令和2年)は134億円となり、18年間で約70億円の増加を達成しています。

表2. グループ沿革(一部)

昭和21年 倉敷青果荷受組合設立
平成10年 洗浄野菜工場設立
平成16年 スチームコンベクション導入
プロセスセンター完成
平成21年 ISO22000取得(青果業界では初)
平成22年 全自動玉ねぎ皮むき機
新本社棟完成
平成25年 電動式3段ラック
カット野菜自動計量、包装機導入
平成28年 クラカアグリ設立
平成29年 集出荷貯蔵施設完成
平成30年 農産物処理加工施設完成(カット野菜工場)

図2. グループ売上高推移 (HPから引用)  単位:円

(2)カット野菜進出の経過

 カット野菜進出の経過は、倉敷チボリ公園というテーマパークが平成9年に開園した際に、当時グループ企業であったピザ店が同公園に出店をしました。その時に他の飲食店から、「カット野菜を納入してほしい」という要請を受けたことがきっかけでした。この時、岡山県内でカット野菜を手掛ける事業者がいなかったこともあり、今後の需要拡大を予見した冨本理事(現理事長)(写真1.)が、カット野菜のリサーチやカット野菜製造機器、さらに食品衛生の勉強を一から始められました。勉強を進めていく中、当時カット野菜の洗浄は次亜塩素酸での殺菌が主流でありましたが、食品衛生セミナー参加をきっかけにして最新の設備であるオゾン殺菌機の導入を決断し、4,000万円かけて市場内にカット野菜施設を設置しました。当時、冨本理事1名とパート6名からカット野菜事業がスタートし、原料調達、商談、生産管理すべてが冨本理事を中心に試行錯誤で行われ、お弁当を作る総菜事業者から新たに受注を受けるなど手ごたえを感じながら、人員と設備を増設してこられました。常に身の丈にあった投資をするという考えから、売上の増加に合わせて少しずつ増設をされ、この18年間で約15回、つまりは毎年少しずつ拡張工事をしてきたことになります。

写真1. 冨本 尚作 理事長

(3)産地契約取引の推進

 カット野菜の工場設備拡大に合わせて取り組んできたのが「産地との契約取引」です。卸売部門から相場で調達するビジネスモデルにすぐに限界を感じた冨本理事長は、産地との契約取引に着手しました。県内外問わず加工契約取引に理解のある産地を探し、加工用の規格包装の簡素化、部会との勉強会、物流のコールドチェーンなどを、JA、普及センター、蔬菜部、さらにカット野菜部門が役割分担して取り組みました。その中で福岡県のJAみいとは、水菜部会(27戸)、グリーンリーフ部会(58戸)、ほうれん草部会(13戸)との契約取引を実現し、加工業務用野菜の産地化を進めていきました。(図3.)。このようなJAみいのような産地化を35産地作っています。

図3. 加工・業務用野菜需要に対応した取組み① (HP スライドから抜粋)

 さらに、玉ねぎやキャベツといったカット野菜では重要な品目は、自社で短期・長期貯蔵施設を建設し(写真2.3.)、近在産地との契約取引を増やし周年安定供給体制を作っています。

写真2. 岡山県、近県産の玉ねぎ
長期貯蔵し、8~9月の端境期に中国産に頼ることなく安定供給

写真3. 岡山県産の寒玉キャベツ
短期貯蔵して、端境期の4,5月に供給(105トン貯蔵)

 平成28年には農地所有適格法人クラカアグリを設立し、農業部門にも進出しました。15haの水田転作の農地でキャベツや青ネギなど露地野菜を栽培しています。この取り組みで農業経営の大変さが分かり、さらに農業の支援を強化することに。育苗の提供や所有する機械を県内の各地に持ち込み、畝作りや定植などの作業受託サービスも行っています。このことで岡山県の中山間地域は水田区画が小さく、高齢化により集落営農などの存続が危ぶまれる中で、クラカアグリが経営の厳しい中山間地域の農地を継続できるように産地支援をしています。

写真4. クラカアグリのサポート内容
大玉で栽培することで収穫量がアップと分かりやすく農家に栽培を進めるチラシを作成

(4)情報戦略の強化

 現在、冨本理事長が最も力を入れているのが「情報戦略」です。5年前に情報管理室を設置しています。市場の情報部門というと、伝票入力や受発注システムなど営業のバックオフィス的なイメージが強いですが、同組合の情報管理室は現場の先を行く部署、営業や現業の仕事を変えていく部門として、理事長が一番力を入れています。

 驚いたのがHP(https://kuraka-g.com/)です。このHPを見れば、カット野菜の新規取引先や新規仕入先である産地、生産者が倉敷青果荷受組合のことが理解できるように、全ての情報が記載されています。インタビューの時も、情報管理室の主任が「今のご質問は、このページに全てあります。」と都度、HPの画面を表示してくれました。実際にこのHPから新規顧客を獲得しているといいます。昔に作成したHPのまま、唯一動いているのが市場カレンダーだけという市場のHPが多い中で、倉敷青果荷受組合では今までどんなことを取り組み、これからどのような取り組みをしていくのか?社員一人ひとりが活き活きと仕事している様子が全て伝わってきます。

 HPの発信力は顧客だけでなく、リクルート活動にも活用しています。市場(青果卸)という、いわば“ブラックボックス”の企業に応募する人が不安のないように、社員の紹介や先輩社員の声などが丁寧に記載されています。入社後も新人の営業社員は、まずこのHPを読み込み全て理解することから始まります。HPを営業ツールだけでなく、営業業務の標準化、人材育成にも役立てているのです。

写真5. 先輩社員の紹介(HPから引用)

3.経営革新の考察

 経営革新の成功要因について解説したいと思います。(表3.)
 経営革新の一番の成功要因は、冨本理事長自らが経営理念を受け継ぎ社員全員に浸透させている点です。昭和49年に入社した冨本理事長が、先代の吉田理事長(※吉田理事長の「吉」は正くは土のしたに口「𠮷」)から教えを受けたのが、現在の経営理念である「挨拶」「清掃」「新しいことへの挑戦」です。特に「新しいことへの挑戦」という教えが、経験のなかった理事長がゼロから勉強をしてカット野菜のスタートをさせています。衛生面の問題、生産管理の問題、仕入の問題、新規事業が最初からうまくいくことはなく、スタートさせた後もこの「新しいことへの挑戦」というスタンスで乗り越えてきたマインドが重要なポイントです。「我々流通に関わる者は、流通への変化の兆しをいち早くつかみ、素早く対応していくのが本来の仕事である。カット野菜部門は、市場の延長線上ではなく、食品メーカー業の全くの別部門という認識」。「新しいことへの挑戦」という理念は、市場という枠組の中で挑戦するのではなく、「流通の中で変化に挑戦していく」という大きな枠でとらえて実行している点が、この業界の経営者との大きな違いなのかもしれません。

表3. 経営革新 成功のポイント(考察)

視点 成功のポイント
経営理念 「挨拶」「清掃」「新しいことへの挑戦」
顧客の視点 取引先:カット野菜ニーズの対応、24時間生産体制、国産野菜の安定供給、ISO品質管理など
生産者:契約取引、規格資材の簡素化、農業支援
業務プロセスの視点 カット野菜事業への参入
産地との契約取引
販売管理システム
グループウエアの活用
ECサイト
教育と学習の視点 毎週の新しい取り組みの報告
大手コンビニチェーン食品事業者との商談
卸から食品メーカーへの参入による新たな学習
財務の視点 日別利益管理

 現在、冨本理事長は、全社員に対して毎週「新しいことへの挑戦」を報告させています。業績を上げることだけに評価を当てるのではなく、社員の新しいことへの挑戦の過程を評価基準にされています。また、毎週報告をさせるのは、理事長自ら報告書を読むだけでも大変な作業ですが、社員に仕事を変えることを自分の仕事の習慣にさせる側面もあるかと思います。この業界の仕事は、日々の繫雑な仕事に追われて「新しい挑戦」を後回しにしがちであり、ヘタをすると取り組んだことも後退しがちだからです。

 また、「清掃」という教えについては、外注に出すことなく、社内全部、トイレも当番を決めて社員全員で行っています。これには理事長をはじめ役員も全員当番に入り実践しています。経営理念を全社員に浸透させるためには、①リーダー自らが実践すること②繰り返し報告を義務づけること③「挨拶」や「掃除」といった基本的なことを繰り返し行う仕組みを作ること。ここが倉敷青果荷受組合の一番の成功要因だと思います。

 業務プロセスの視点では、卸業務からカット野菜事業への参入をしたことが明白なポイントですが、それ以外にも市場仕入から契約取引に変化していった点や、販売管理システムの導入など業務プロセスを変えていることもポイントです。他にもシステム利用という点では、上述した「新しいことへの挑戦」の業務報告を共有するためにグループウエアを導入し社員の情報の共有化を行っています。これについては、冨本理事長は「社員間で情報と問題点を共有化することが大事」と言います。これは個人商店化が進む市場業務では、個人の問題は個人ごとに細分化されていく傾向にありますが、仕事の問題点をいち早く社内で共有することで、個人の問題にすることなくリーダーがいち早く把握をし、解決までのプロセスを管理する。まさに従来の市場業務の真逆の発想とも言えます。
 また、FAXのOCR化やオンライン受注によるペーパレス化、蔬菜部の休日出勤の削減と効率化にも取り組んでいます。現在、昨年から開始した朝採りスイートコーンの量販店での販売は大変好評で、今後はECサイトで直接消費者に届けることも計画しています。上述した「新しいことへの挑戦」は、「業務プロセスを常に変化させていくこと」につながっています。

 教育の学習の視点では、カット野菜事業へ参入したことで、取引する相手が変わり、「食品業界の“ネクタイをしたバイヤー”と商談をするようになったこと」が大きいと言います。これは前号の「会津丸果の経営革新」でも触れましたが、大手本部バイヤーと接することで、商談ノウハウが身に付き、成長していくことが大きな視点です。
「現在、大手小売チェーンの中四国の野菜プロセスセンターを任されたことにより、商品開発の発想力や企画力など大変勉強になっています。」と冨本理事長もおっしゃっています。そこで培った対応力で他の大手小売チェーンとの取引もスタートしています。また、現在外国人技能実習生だけでなく、アジアからの正社員も6名採用されています。異国の正社員との間に生まれる社員への刺激で新たな成長を促そうと、冨本理事長は考えています。

 財務の視点では、上述したグループウエアで、日別の部門ごと、品目、取引先ごとの利益管理を共有しています。2003年の48億円から2020年の134億円まで増収を続けており、経常利益率も2%後半と高い利益率を達成しています。

4.さいごに

 今回の事例から我々が学ぶことは、倉敷青果荷受組合は、「カット野菜を取り組んだから成功したわけではない」点です。流通の変化に対応して、市場の仕事を変える「新しいことへの挑戦」を常に行っていることです。そこには、リーダー自らが先代から培った経営理念という軸を実践し、社員にも浸透させていることが大きな要因であるということです。経営理念を「挨拶」「清掃」「新しいことへの挑戦」とシンプルに3つとして、分かりやすいことも社員に浸透できている点です。さらに、精神論だけではなく、グループウエアを活用して社員の取り組みの過程や問題点の共有を仕組みとして作っていることも、「経営理念を形骸化させないポイント」です。
 最初に紹介したApple社では「世界を変える」という信念 ‐「Why」‐が多くのファンを生んでいくと解説しましたが、倉敷青果荷受組合も「青果流通を変えていく」という「Why」が明確に発信されており、これからも多くのファンを取り込んでいくのだと思います。

 また、経営革新の功績は振り返ると大きく感じられ、我々では真似をすることができないと思いがちですが、根本は冨本理事長が新規事業を進めるために、市場の一室でパート6名と「最初の一歩」を踏み出したことです。一歩踏み出すと、今まで会ったことがないタイプのバイヤーと出会い、学習と成長が加速されていきます。どの経営革新の事例でも、最初の一歩を踏み出した後は、軌道にのり追い風に事業が進んでいくように思います。着目するのは、「最初の一歩をどう踏み出すか」なのです。

以上

※取材日:2021年8月
※本事例中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞および製品名等は、閲覧時に変更されている可能性があることをご了承ください。

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