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米子青果の経営革新〜人づくりとIT活用で業務改善に取り組む〜

青果流通経営コンサルタント 本田 茂 氏

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1.はじめに

 皆様、こんにちは。このメールマガジンでは、全国の地方青果市場関係者の皆様に役立つ情報をお届けしています。

 事例紹介の前に、経営者の皆様がこれから経営革新をしていくために必要なヒントになるトピックをご提供しております。今回は、「コーチング」について解説したいと思います。


(1)コーチング、ティーチング、カウンセリングの違い

 「コーチング」という言葉を聞いて、イメージするのは野球やテニスの「コーチ」だと思います。このイメージだと、コーチは選手に、やり方やきつい練習を課して選手を育てていくことを想い描くと思います。実は、「コーチング」という言葉の本来の意味は、「本人が目標を明らかにし、本人が課題解決をしていく手伝いをする」というニュアンスで使われています。
 少し古い話になりますが、テニスの錦織圭選手のコーチにマイケル・チャンが就任した際に最初にしたことは、錦織選手との内面の話合いでした。当時、世界のトップランクの選手に勝てないと思い込んでいた錦織選手に、「自分のテニスをすれば勝てる」と思えるまで、とことん話し合ったと言います。その後、粘り強くストロークで戦う今の錦織選手のスタイルが確立していったのは、皆さんもご存じのとおりかと思います。コーチングの一番大事な肝は、「コーチは、本人が課題解決する力を持っていると信じること」だと言います。
 コーチング、ティーチング、カウンセリングの違いについて整理してみます。

表3. 経営革新 成功のポイント(考察)

分類 相手の状況 関わり方 ゴール
カウンセリング 現状処理で手一杯
どうしたらいいか分からない
相手の話を聞く 相手との信頼関係を築く
現状の整理をする
ティーチング 経験・スキルがなくできない やり方を教える
マニュアル作成
見本を見せる
スキルを習得させる
経験を積む
コーチング 現状を打破したい
目標が定まらない
本人に課題解決の気づきを与える
自分で考えさせる
目標を明確にさせる
自分で一歩を踏み出す

 大事なのは、まずこの言葉の違いを知り、相手が今どの段階で、どんな支援が必要なのか? 相手の状況に合わせた対応をすることです。現在の各市場の役員クラスの方は、自分たちで問題難題を乗り越えてきた世代です。できる人ほど「自分目線から相手を見がち」で、相手のタイプや段階に合わせてアプローチ方法を変えるという視点や経験が少ないように思います。コーチングはすぐに習得できるものではなく、トレーニングを積んで身に付けていくものです。筆者も今でもコーチングの勉強や訓練を続けているのは、このためです。


(2)コーチングの実践により社員を変えるには?

 社内改革を実行しようとしても、根強い抵抗をする役員や社員の存在があります。この「どーせ無理、やっても無駄。」という無言の圧力は、社員が集まると結構大きな力となります。一念発起した社長や外部からの役員や専門家が来ても、始めたプロジェクトがこの無言の同調圧力に負けて、断ち切れてしまうことが数多くあるように思います。

 「どーせ無理」という人が多いのは、「目の前の仕事が忙しすぎる」という業界特性が大きく影響しているように思います。「忙しい」という字は「心を亡くす」と書きますが、忙しいと現状を変える力を奪われますし、忙しさをやらない理由にできる側面もあると思います。また、抵抗勢力になる方は、ベテラン社員やよく稼ぐエース級の社員であったりもします。毎日の切った張ったの相場の世界に生きがいを感じ、「現状のまま変わらないでいたい」という内心の感情もあるように思うからです。
 こうした「どーせ無理」という社員を変えるには、どうしたらいいか? 以下のSTEPをご紹介します。

表2. 変化を起こすためのSTEP

STEP1 変化への見込みのある社員、または業界に染まっていない中途採用による少数精鋭メンバーの選出
STEP2 ラポール(信頼関係)の形成
STEP3 最低限合意できる目標の設定
STEP4 小さな達成感の共有
STEP5 少しずつ大きな目標へ段階的に拡大させ社内で横展開

STEP1 少数精鋭メンバーの選出

 一度に全員を変えようとすることは難しいので、プロジェクトを作り、少数精鋭メンバーから社内を変えていくことをお勧めします。
 メンバー選出は まずは、現在の社員のなかから変化への見込みがある社員を選出します。判断するポイントは、「今のままではいけない。」と思っていたり、顧客や生産者など相手の立場を考えられる人。業績でなく「素直さ」を持ち合わせている人が適任です。
 または、この業界に染まっていない中途採用で別のスキルを持っている人材をプロジェクトのメンバーに入れていくのも一つの手です。ただし、全員が中途採用だと周囲との温度差が大きくなるため、従来の社員とのバランスも大事です。


STEP2 ラポール(信頼関係)の形成

 ラポール(フランス語で「信頼関係」の意味)を最初に形成することが大事です。本人が納得していないまま、例えば上からの命令でプロジェクトを進めても、形骸化してしまったり、途中でフェードアウトしがちだからです。ラポール形成では、相手とのカウンセリングも丁寧に行い、現状の課題整理を手伝いながら、「本当に今のままで良いのか?」 「これからどうしていきたいのか?」 コーチングの前段階で本心から語り合える関係を作ります。


STEP3 最低限合意できる目標の設定

 長らく現場をこなすことに精一杯であった社員には、自分の仕事や職場が変  化する経験がないため、変えるという経験を積ませることが大事です。また、大きすぎる目標は、達成できなかった際に、「ほら、やはり挑戦しても無理だった」と元に戻ってしまうこともありえます。そのためにも最低限合意できる目標を設定します。


STEP4 小さな達成感の共有

 合意した目標に向けて、コーチングの関係を築きながら、一緒に目標を達成することです。よく見受けられるのが、「指示だけ出して放置しておく」パターンです。何かを変えた経験がない、新しいことに挑戦したことがない社員を独り放置してしまうと、忙しい現状に引っ張られ、進めなくなってしまいます。放置でなく、寄り添い、時にティーチング、カウンセリングも行いながら、独りにしない。結果だけでなく過程も一緒に見守ることが大事です。筆者は、いろいろな卸売会社の研修や講演を請け負いますが、トップが「後はよろしく」と放置してしまうより、自らも後ろの席に座り、社員と一緒に研修に取り組む方が、やはりうまくいくようです。社員に小さな達成感を経験させる、相場で儲けた以上の仕事の喜びを経験させることが大事です。


STEP5 少しずつ大きな目標へ段階的に拡大させ社内で横展開

 小さな目標を立て、変化すること、達成することを、小さな集団から次第に輪を大きくしていきます。抵抗する社員が、社内で「どーせ無理」という後ろ向きな発言が言いづらくなるような雰囲気を作っていきます。そのような雰囲気を作るためには、社員の取り組みの過程をトップと役員がきちんと見守り、評価することです。「相場で稼ぐことだけを評価している時代はもう終わっている」ことを、今こそ見直して欲しいです。

2.米子青果の経営革新


(1)米子青果の概要

 今回は、IT導入とコーチングにより業務改善を実現させている鳥取県の米子青果を取り上げます。
 鳥取県の民営地方卸売市場ですが、農経新聞社の調査では売上高が2003年度の51億円から直近では70億円を超えており、17年間で20億円近く伸長しております。経常利益率も1%を超えており、堅実な経営をしております。
 上田博久社長は、「インターネットが普及し、生産者と消費者の距離も近くなり、市場流通も新しい挑戦をしていかないといけない」という信条を持ち、早くからトレーサビリティに取り組み、市場ブランドとして「ええもん畑」を作っています。仲卸のない市場特性も活かし、古くからパッケージ、配送機能を請け負うグループ会社の設立、島根エリアへの展開、近年ではカット野菜業者を子会社化するなど、市場関連事業も積極的に展開しています。
 5年ほど前からは、各自で作成した事業計画書の社内発表会を外部から来賓をお招きして開催するなど人材育成にも力を入れています。地域貢献では、消費者との収穫体験イベントの開催、地域清掃活動、地域の凧揚げのイベントにも会社として参加し、地域に密着した様々な活動をされております。

 さらに消費者向けのブランドとして「金の小槌」を立ち上げ、干し芋、奈良漬け、お餅などプロと連携して商品化を行い、消費者への販売も力をいれています。上田社長のリーダーシップで「市場から販売会社へ」をスローガンにして、変化への対応を実践されております。

表1. 米子青果の概要

名称 株式会社米子青果
設立 昭和15年11月20日
代表 上田 博久
資本金 2,050万円
売上高 2003年度  51.1億円
2015年度  62.6億円
2020年度  70.7億円
従業員 56名
グループ企業 有限会社P・K・C(仲卸/パック加工)
有限会社フレッシュサプライヤー(仲卸)
有限会社FVF(運送)
有限会社山陰食材加工(カット野菜)

写真1. 上田 博久 社長

写真2. 社内発表会の様子


(2)上田 剛史 取締役によるデジタル化と業務改善

 米子青果は、上田社長の長男である上田取締役が米子に戻り、米子青果に入社したことで転機を迎えます。
 上田取締役は、大学の理工学部大学院を卒業後、大手企業に入社され元々家業を継ぐ予定はありませんでした。エンジニアとして数々のプロジェクトをこなす日々でしたが、インド駐在になった際に、様々な国の人と仕事をする中で価値観が大きく変化し、日本の地方で青果流通という地に足のいた家業の大切さに気付き、退職して米子青果に入社する決意をします。

写真3.上田 剛史 取締役

表4.上田 剛史 取締役の経歴

2011年 株式会社日立製作所 入社  ソフトウェアエンジニアとして活躍
2015年 日立コンサルティングインド出向  インド駐在
2017年 ソニー株式会社  転職
ゲーム事業部で次世代OSを開発
2019年9月 米子青果へ入社   野菜品目担当営業としてスタート
2020年7月 取締役部長に就任  DX部新設

 上田取締役が入社して初めて感じたことは、「紙が多く生産性が悪い」「右から左に物を流して手数料をもらうビジネスモデルでは近い将来やっていけなくなる」という違和感でした。会社のHPも、外から見た人が市場というブラックボックスを理解できるものではなく、内向きなものでした。そこで、まず着手したことは、HPの刷新です。消費者や市場を知らない人が市場のことを分かるように作り直しました。ここで、「市場の仕組みや社長の想いなどを聞き取りしていく中で米子青果のことがよく理解できたので、いい経験になった」と振り返ります。同時にECサイトを立ち上げ、直接消費者への販売も積極的にやっていきました。ECサイトの売上は市場の売上規模からすればごく一部のものですが、SNSをきかっけに米子青果の発信力が高まり、いろいろな関係者とつながることでき、卸部門の新規開拓にもつながりました。

 その後、DX部(正式名デジタルトランスフォーメーション&ビジネスプロモーション部)を立ち上げます。元々市場から販売会社への変化を掲げていた上田社長の「新部署の名称は、どうせなら市場の概念にとらわれないネーミングにしよう」との意見からこの名前となりました。

写真4.米子青果HP と「金の小槌」ブランド

表5. DX部のこれまでの取り組み (2019年9月~2021年7月)

取り組み内容 説明
社外向け会社のHP刷新 消費者にも市場を理解してもらえるように分かりやすくリニューアル
「金の小槌」のECサイト開始 消費者向け直接購入サイトの開設
グループウェア・ビジネスチャットツールの導入 社内での情報共有はスマホで実現
スピーディなコミュニケーション(チャット、通話、オンライン会議など)をツールで実現
アカウント会議の改善 BIツールを活用した取引先・品目ごとに売上・粗利益管理の実現で分析向上と会議資料作成工数の削減
ペーパーレス・郵送費削減 FAXや郵送での受発注、仕切書、請求書を電子化
地場生産者の出荷情報のシステム導入 日本事務器 「fudoloop」の導入
社員の電話での出荷聞き取り業務、市況報告の手間を削減
基幹システムの導入 販売事務業務を大幅に刷新
朝9時半には仕切販売入力が完了

 次に取り組んだのがグループウェアの導入です。机の上でPCに向き合う習慣がないことと、現場や外勤も多い営業社員の特性を考えて、スマホで利用でき、チャット、通話、オンライン会議など多様でスピーディなコミュニケーションをとるためにグループウェアを導入しました。社内全員への伝達事項、部門ごとの伝達事項などが整理されて表示されることに加え、自分が直接は関わっていない情報も全て見られるようになっています。社員同士の連絡や情報交換も、チャット機能により早く端的に実施できるようになりました。

 また、属人的な営業方法改善の一つとして、商談の共通フォーマットを作成し、目先の販売だけに追われず、2~3か月先まで量販店へ提案ができるよう意識改革を促しています。営業担当者には、自分の品目・取引先ごとの売上・粗利益について、10日単位で計画比と前年比を把握させています。今までの「自分の好き嫌いや感覚の商売」から転換し、取引先ごとのデータ分析により担当者同士の連携(米子青果は産地担当制)を行い、取引先へのチャンスロスの削減やリカバリー対策をいち早く打てるようになりました。
 毎週行われる実績会議では、販売分析のBIツールを導入したことで営業社員が会議のための資料作成に時間を割くことを削減しました。

 さらに、地場生産者から翌日の出荷明細を夜遅くに把握したり、市況報告できるよう、日本事務器の「fudoloop」を導入し、リアルタイムでスマホで確認できるようになり、営業社員の働き方の効率化につなげています。
 こうして、社員の今までの仕事のやり方を見直し、情報を共有し、早い段階で対策を打つことができるようになりました。また、社員からも積極的に意見が出るようになり、社内の業務改善が進みつつあります。

 そして、業務改善の総仕上げとして、今年7月に基幹システムの入れ替えを無事に完了させました。従来の販売管理システムは、40年前のもので、営業社員が伝票作成を行い、パンチャーの入力を待ってから仕切りを作成するという無駄な工程がありました。今回のシステムでは、従来の仕入と販売伝票の作成を並行して行えるようになり、営業社員の待ち時間を大幅に短縮することができました。従来お昼前までかかっていた伝票整理が9時半には終えるようになり、大幅な時間短縮を実現させました。
 他にも、経理業務の大半のアナログ業務が無くなり、紙ベースで行われていた請求書や仕切り書の郵送も、取引先の理解を得ながらデジタル化を行い、事務員の労力や通信料の削減などの業務改善も行っています。

 青果業界では「仕方がない」「相手のあることだから」と思考を止めてしまうところですが、異業種からの上田取締役の視点で「おかしい」と思うところを、この1年間半の短期間で業務改善をしています。上田取締役いわく、改善は無料のツールであったり、コストを大きくかけずに我々が「できるところ」から一つひとつ積み重ねていったとのことです。


(3)DX部の今後

 上田取締役は、業務改善により時間を確保した後には、市場の仕事を以下のように変えていきたいと語ります。

表6. DX部の今後の活動

DX部の今後の活動
・個人商談からチームでの営業へ 
・商談提案書を作成して外に出る営業へ
・個々の社員のプロセスの見える化を行い、実態を把握する
・社員の新しい評価制度(外部コンサル導入)

 市場の仕事は品目担当ごとに産地・販売の背景や状況が異なります。それゆえに個々が独りで問題を抱え、社内では把握できなくなっています。こうした市場特有の「管理できていない状況」に対し営業社員のプロセスを把握し、問題と解決をチームで共有していく体制を目指しています。
 さらに、DX部には業務改善のほかに、「新しいビジネスを作り出す」という目的もあります。鳥取県産の梨やスイカなど主力商品の輸出事業や、生産者や買参人に対する新たなサービスなども模索されております。これからも米子青果DX部の活躍には目が離せない状況が続きそうです。

3.経営革新の考察

 今回の経営革新のポイントは、異業種であるIT業界でいろいろな課題を改善する経験をしてきた後継者が、34歳の若さで会社に戻り経営改革を実行している点です。以前の連載(メールマガジン3号)で、「事業承継には先代の任せる勇気と、後継者の引き継ぐ覚悟がまず第一に必要である」という話をしてきました。上田取締役は、IT業界でそのまま活躍していても、おそらく世の中の役に立つプロジェクトをバリバリこなしていたでしょう。そのキャリアを捨てて、鳥取県の地方都市の中小企業に戻り、品目担当者から再スタートするというのは、青果市場の意義を感じてこれから変えていくという相当な覚悟がないとできないことではないかと思います。
 そして見逃せないポイントは、ここまで土台を作ってきた上田博久社長の「任せる勇気」です。いくら異業種で経験を積んだ息子が戻ってきたとしても、これだけ短期間で変えていくことには相当なリスクも感じていたはずです。DX部を作り責任者にした以上は「自由に任せる」という上田社長の信念も、相当なものであると思います。

表7.経営革新 成功のポイント(考察)

視点 成功のポイント
事業承継 異業種からの経験と視点
業務プロセスの視点 DX部の設置
グループウェア、基幹システム、アプリを活用した業務改善
教育と学習の視点 上田取締役のコーチング能力
財務の視点 毎週の品目・取引先ごとの実績管理とリカバリー
外部の活用 IT業者、外部専門家を活用し、自社向けにカスタマイズ

 次に重要なポイントは、上田取締役の「コーチング能力」です。異業種から市場にきた方が必ず成功するかというと、上述のように抵抗圧力に屈してうま くいかないケースも多いかと思います。しかし、上田取締役は、上から押し付けるのではなく、「長期的な目標に向かって仕事を変えていく苦労と何もしないで業績が悪化し、働き方も変わらない苦労。どちらにせよ、同じ苦労をするならどうしたいか?」「長期的にこの職場をどうしていきたいか?どのように変えていきたいか?」と、一人ひとりの社員と向き合い話し合いながら、業務改善を進めています。
 今年7月の基幹システムの入れ替えは、時期的にはスイカや地場野菜の繁忙期でもあり、抵抗する社員があったはずです。しかし、文句を言う社員は誰もなく、社員全員が一丸となり「どうしたらできるか?」という姿勢で取り組んでくれたといいます。この数か月前に、毎月の社員総会の中で「何も変えようとしないで、できない理由を探し、挑戦し失敗した人を否定する人間は卑怯だ」と訴えています。この1年半これだけの業務改善に挑戦し、社員と向き合ってきた上田取締役だから言える本心での言葉です。そして社員が協力してくれた後には、全員に心からお礼を言ったそうです。

 往々にして優秀な人ほど上から目線になってしまったり、プライドが邪魔して本心から自分の想いや感謝を言えないものです。上田取締役は筆者のインタ ビューでも、立場や役職を気にしないフラットな雰囲気がにじみ出ています(筆者はWEBミーティングだけで、実は一度もお会いしていないのですが)。これは、上田取締役の元々の資質もありますが、海外の地で様々な立場の人とプロジェクトを実行してきた経験が活きているのではないかと感じます。市場にどっぷり染まった社員と信頼を築き、社員の意識を変えながらITを活用して業務改善をしていく。「ITを導入することで何か変わるきっかけになればいい。」こういう目的で市場がシステム導入を試みるケースが多いように感じますが、ITは魔法の道具ではなく、IT導入と一緒に人も変わらないといけません。
 さらに、業務プロセスを改善する際に、まずDX部という部門を作り、自ら責任者となりました。人材に限りのある中小企業では、全員が専任というわけにはいかないため、「従来の担当業務と兼任しながら進めている」ことも着目すべき点です。現在ではDX部が軌道に乗ってきており、中途採用も開始しているそうです。現場社員を全員変えようとするのではなく、異業種で経験を積んできた中途採用を入れていくことも経営革新を進めるうえで重要な視点です。

4.さいごに

 この市場業界では、経営革新がうまく進まない要因として、現場が忙しすぎることと、抵抗するベテラン社員の存在を挙げました。近年においては、ワークライフバランスの問題があり、社員の残業規制や有給取得5日の義務など、社員にこれ以上無理をさせられないという問題も追加されています。
 今回の米子青果の事例では、短期間に社員の意識とITの導入と実際の業務改善を一気に進めています。こうして無理だと言われた市場の長時間労働を効率的に変えて、生み出された時間で本来取り組むべき営業に着手をしています。逆に言うと、「ダラダラと長期的に取り組むと、従来の慣習に戻りやすい」と言えるかもしれません。
 プロジェクトで短期間に成果を出すことは、相当な覚悟と苦労をイメージされるかもしれませんが、実際に米子青果では、「大きく投資した基幹システムの導入以外は、どれも無料や少額でできることを一つひとつやっているだけ。どの市場でも取り組めるはず」と上田取締役は語っています。まだ30代の上田取締役のこれからの市場を変えていく新しい発想力とバイタリティーは、米子青果だけでなく業界全体にとっても良い影響を及ぼしていくと期待したいです。

 最後に、前号で皆さんに紹介したアメリカの「TED」を札幌で開催している企画があり、その中で小さな町工場を経営している「植松勉氏」の動画をご紹介いたします。
 植松氏は、大学の先生と組み、現在宇宙開発に挑戦している方です。動画の中で植松さんは、宇宙にあこがれをもっていた少年時代に「どーせ無理」という大人の言葉に傷ついて育ったそうです。「どーせ無理」この言葉を使うことで挑戦をせずに安全なところで何もしなくて済む。一番使ってはいけない言葉。この言葉を使う人は「やったことがない人」。植松さんは、「どーせ無理」という言葉をなくし、夢を持つ人に周囲の方が「だったらこうしてみれば?」こう言葉をかけあう世の中にしたいと講演を結んでいます。
 まずは、この動画を今回のインタビューに協力していただいた上田取締役、今までの事例紹介させていただいた社長の皆様に贈りたいと思います。事例として紹介させていただいた各社リーダーの皆様は、「どーせ無理」と安全なところから「やらない理由」を探すのでなく、自ら「だったらこうしてみよう」と動く皆様です。
 経営革新を取り組む皆様の中には、孤軍奮闘されている方も多いかと思います。「どーせ無理」という他の役員や社員だけでなく、「自社だけはない」という同じ課題を抱えた全国の同業者の存在も皆さんの腰を重くしている要因かもしれません。
 この動画が経営革新に意欲を燃やす読者の皆様のお役にたてればうれしいです。

動画1.Tsutomu Uematsu: 「Hope invites」
https://youtu.be/gBumdOWWMhY(YouTubeチャンネル「TEDx Talks」)
投稿日:2014/09/06 アクセス日:2021/08/17

以上

※取材日:2021年8月
※本事例中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞および製品名等は、閲覧時に変更されている可能性があることをご了承ください。

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