物流2024年問題によって、ドライバーの年間拘束時間が、3,300時間以内となります。これによって、どのような物流が最も影響を受けるのでしょうか。現状の拘束時間が長い輸送はどのようなものかをみると、図1のように長距離輸送では、飲料・食料品(製造業)が、特に長い拘束時間となっています。現状の基準を超えている運転手の割合は26.3%、2024年以降の改正された基準では68.7%が超えることとなります。続いて多いのが、農産・水産品出荷団体であり、現状の基準を超えているのが17.9%、改正された基準で53.7%が超えることとなります。一方、宅配便は、特別積み合わせ輸送(特積み)ということになりますが、基準を上回る輸送は、5.5%と少なくなってます。つまり、基準が改正されると、飲料・食料、農産・水産品では、半数以上がこれまでのような運び方ができないということになります。
図1 長距離輸送での1年間の拘束時間別の自動車運転者数(発荷主別)
出典:厚生労働省・有限責任監査法人トーマツ「トラック運転者の労働時間等に係る実態調査事業 報告書」
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000883704.pdf
をもとに作成
農産物は、全国で生産されたものが全国の消費地に向けて輸送され、かつ鮮度が求められることから直送されることが多くなります。そのため、長距離輸送の割合が高く、拘束時間が長くなるという特徴があります。東京都中央卸売市場の統計資料によると、東京都中央卸売市場の野菜の産地からの平均輸送距離(重量ベース)は、1960年は243.7kmであったのが、1980年に398.8kmと、急激に伸びています。その後、1990年に455.8km、2021年は526.4kmとなっています。
長距離輸送においては、これまでのように運べないという問題が発生することが多くなります。現状として、九州から東京への農産物の長距離輸送は、ドライバーが4泊5日で回しているのが一般的です。
『第3回 持続可能な物流の実現に向けた検討会(経済産業省・国土交通省・農林水産省)』にて発表された九州から関東向けの運行スケジュールシミュレーションの内容(注1)によると、現状では1日目の16時から積み込みをして、2日目の夜から関東の市場4カ所で卸ろし、卸売市場で3日目に販売をしています。
しかしながら、このスケジュールの場合、2024年4月以降の改正された基準では、休息期間不足、運転時間超過、拘束時間超過になる可能性が高いといえます。2024年4月以降の改正された基準に合わせた場合、休息期間が長くなるため、3日目の夕方に到着し、消費地側卸売市場で4日目に販売をすることになります。九州で生産された野菜・果物は、従来は3日目販売であったのが、4日目販売にならざるを得ないことから、鮮度が落ち、市場価値が下がる可能性があります。
また、フェリー航走を利用すると、3日目販売に間に合いますが、フェリー料金がかかるために割高になる可能性が高いといえます。このように、長距離輸送については、輸送方法を大きく見直さざるを得ない状況といえます。
(注1)出典:第3回 持続可能な物流の実現に向けた検討会(経済産業省・国土交通省・農林水産省)
『資料2-1 事業者発表資料(全国農業協同組合連合会)』
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sustainable_logistics/pdf/003_02_01.pdf
現状としてドライバーの賃金は安く、大型貨物車ドライバーが全産業平均に比べて約1割低く、中・小型貨物車ドライバーが約2割低くなっています。このことがドライバーのなり手がいない原因ともなっています。国土交通省は、改正貨物自動車運送事業法により設けられた「標準的な運賃の告示制度」に基づき、2020年4月に標準的な運賃を告示しました。法令を遵守して持続的に事業を運営する際の参考となる運賃を示すことにより、トラック運送業における取引の適正化・労働条件の改善を促進しようというものです。今後、標準的な運賃のレベルに上昇していくことが予想されます。さらに現在、燃料費が高騰しているほか、荷主企業が有料道路料金を支払っていない場合もあり、これも収受する方向です。
東京都中央卸売市場では、40%弱の野菜が500km以上の長距離輸送によるものであり、2024年問題の影響を受け、今後、輸送が困難となると同時に、運賃が高騰するなどの影響を受ける可能性が高いといえます。このような長距離輸送が多いという状況は、図3のように東京都中央卸売市場が特別なわけではありません。関西は、東京以上に長距離輸送の占める割合が高く約60%を占めている市場も多くなっています。さらに全国の多くの中央卸売市場は、農産物の長距離輸送比率が30%を超えており、特に2024年問題の影響を受けることとなります。
図2 各中央卸売市場の野菜の産地からの距離帯別割合(重量ベース)
出典:各市場の年報、統計資料をもとに作成
以上
※fudoloopメールマガジン(掲載日:2023年12月8日)
※本事例中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞および製品名等は、閲覧時に変更されている可能性があることをご了承ください。