1.はじめに
皆様、こんにちは。このメールマガジンでは、全国の地方青果市場関係者の皆様に役立つ情報をお届けしています。
今回は、まず「投資をどう考えるか」を論じていきます。
企業が成長をしていくためには、投資が必要です。投資を怠ると、財務上は減価償却費が減少し収益は上がるかに思えますが、社外との関わりや社内のムードが閉鎖的になり、売上高はじり貧になっていきます。そうなると利益が上がるどころか、利益の源泉となる売上粗利益が販管費を賄えなくなり、経営収支は赤字に陥ります。経営者の皆さんには自明のことだと思います。
また、投資には設備やITなどもありますが、新卒の採用と教育など「人材育成への投資」も含まれます。業界誌の農経新聞社では毎年社員を集めた研修会や交流会を何年も企画しておりますが、「青果市場業界が成長していくためにはもっと人材育成をするべき」との社の方針に筆者も強く同感しております。
さて現在は、開設以降、建物や設備を更新できていない市場も多く、耐用年数の問題もあり、この投資の問題を抱えている経営者も多いように思います。そこで、設備やITなど一度に大きな資金を投入する場合に、どのように投資を考えるべきか?その手順を考えていきたいと思います。
(1)投資金額と見積とキャッシュフローのイメージをつかむ
仮に、設備投資で3億円の投資が必要であると考えます。全額借入金で対応するとすると、返済年数は設備の耐用年数にもよりますが、仮に20年で毎年の返済は1500万円とします。基本、金融機関は耐用年数以内での返済を計画するよう提案してきますが、最近では耐用年数以上の返済も検討してくれることもあります。筆者は会社の資金繰りを一番に考えることもあり、返済期間をぎりぎり伸ばすことを提案します。自己資金、補助金を入れられれば、もちろん毎年の返済金額の負担も減少します。この時の投資とキャッシュフロー(以下、CF)の図は以下となります。
図1.投資とCFのイメージ
営業CFとは、簡単に計算すると「経常利益+減価償却費」で表します。投資後に自社の営業CFは返済金額の1500万円を上回ることが必須です。金融機関は、この営業CFをチェックします。投資後に投資効果がどれくらいあり営業CFが増加できるのか?ここが問題点となります。この図1.のように「投資後の営業CF(厳密には投資効果により増加した営業CF)の合計が何年で投資を回収できるか?」を考えることも大事です。これを「投資回収期間」といいます。
投資回収期間(年) = 設備投資金額 ÷ 投資後の営業CF(または増加した営業CF)合計
投資回収期間が適正か?投資回収期間を役員間で明確に議論することが大事になります。
(2)返済可能な目標売上高の計算
次に借入金額1500万円の返済可能な目標売上高の計算について考えます。
投資前の減価償却費での経常利益率が仮に0.6%とします。その時の計算式は以下になります。
目標売上高 = 返済金額(1500万円) ÷ 経常利益率0.6% = 25億円
仮に現時点での売上高が20億円の市場であれば、投資後に5億円の売上増加が必要となるわけです。
大きな投資をする以上、現在よりも投資効果を出さないといけません。仮に5億円の売上増加が1億円しかできなかった場合、返済金額の不足額はどうなるか?計算するとこうなります。
不足返済金額 = 売上不足額4億円(目標25億円 – 実績21億円) × 経常利益率0.6%
= 240万円
返済金額の1500万円のうち、1260万円までは返済できても、240万円CFが不足するリスクが生じます。この時に、金融機関に対して「このまま全額返済すると手元の現預金が減少するので、返済金額を1500万円から1200万円に減額してください」と交渉することをリスケといいます。こうなると必要な資金が発生したときに、金融機関は新しくお金を貸してくれなくなります。運転資金が容易に借りられなくなると、何かあった時に黒字倒産することもありえますので、リスケは最後の手段となります。
経営者は、投資をした後にダメだった場合のリスクを数字で算出し、慎重になること、より危機感を背負うことも、当然大事であると思います。
(3)投資実行前に助走期間を作る
経営者は、借入金の連帯保証人にもなるわけですが、投資の結果として会社全体の方向性が決まり、社員全員の人生をも背負います。投資をしなければ、じり貧になる。投資を実行するにも返済していけるか?確証などありません。投資の判断にはどちらもイバラの道が待っており、大変孤独な心境であると思います。
最後は、覚悟を決めて清水の舞台から飛び降りる思いで決断を下すわけですが、博打を打つようにはいきませんので、投資をする前に投資効果の確証を得ておくことが当然重要です。確証を得るためには、これから投資をして経営革新をする手応えを、事前にテストマーケティングをして仮説を検証しておくことです。
第1回で紹介した長印須坂青果市場では、プロセスセンター建設で2億円の投資をする前に、小さなテントを建てて、100コンテナ単位で投資効果を何年間も実験をして仮説を検証してから、投資を実行しています。投資には助走期間が大事で、そこで仮説を検証しながら投資計画をたてる。今後の計画を作りながら、これから市場は何をしなければいけないのか?戦略、理念、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と教育の視点、財務の視点など、様々な要素を組み合わせて計画作成の検討をするのです。
事前にやるべきことをやらずに投資の判断を迷えば、リスクを考えると、実行に移すことは難しくなります。投資をする前には、計画をたてること、リスクを数字で向き合うこと、小さくテストマーケティングをして検証を行うことを覚えてほしいです。
2.三島青果の経営革新
今回の事例は、静岡県の地方民営市場である三島青果を取り上げます。
三島青果は三島市の北東に位置し、箱根と伊豆の観光地も隣接しており、消費地としての面と富士山麓の肥沃な土地で農業も盛んな産地としての面もある地域です。創業は昭和6年で、歴史ある民営市場です。
三島青果 概要
名称 | 地方卸売市場三島青果株式会社 |
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設立 | 1931年(昭和6年)5月6日 |
代表 | 代表取締役社長 宮澤 誠 |
資本金 | 3000万円 |
売上高 | 66億円(税抜)(平成31年度) |
売上高構成 | 野菜約65% 果実約35% |
従業員 | 70名(パート含む) 営業社員27名 |
出荷生産者 | 1200名 |
2000年ごろに34億円を維持していた売上が、2005年には30億円を割り込む状況になっていました。2015年に先代社長の急逝に伴い、廃業も検討しましたが、当時担当から取締役に就任していた宮澤氏が(当時45歳)が社長に就任することとなりました。
社長はまず、社員の意識改革に取り組みました。「三島青果は社員一人ひとりの会社」「産地市場としてとにかく生産者をみる」と、市場の存在意義を説きました。「我が社の社員は、生産者が荷物を降ろしに来れば、社員が駆け寄って荷下ろしを手伝い、生産者と情報交換をしています」(宮澤社長)。もちろん、産地巡回、庭先集荷にも力をいれています。
販売管理システムも活用し、品目ごとの利益を把握して賞与で反映するようにしています。賞与は夏と冬の他に年度末にも実施して、年3回、社長の査定の下に支給しています。
社長がとくに力を入れたのが、せりの活性化です。生産者が荷物を出荷しやすいように、自社コンテナを毎年購入して生産者に安価で貸し出しています(20~30円/1コンテナを仕切控除)。ま地元の量販店にもせりに積極的に参加するようにトップ自らセールスを行ってきました。こうした取り組みの成果から就任後の6年間で39億円まで復活することができました。
以前の三島青果はJR三島駅から徒歩10分の位置にあったのですが、2012年に旧市場から車で15分離れた畑のど真ん中に市場を移転しました。旧市場は立地が良いため賃料収入が入るように賃貸にし、新市場建設には10億円の投資を実行し、売上目標を50億円に設定しました。当時は株主から大反対に遭いましたが、旧市場での発展性を考えた時に原点回帰し、せりが成り立つ産地市場を作ることを目的に説得を重ね新市場建設が実現しました。
移転後は、産地に市場が近くなったことで、出荷量が予想以上に増加していきました(自社コンテナを毎年購入し、宮澤氏が社長に就任してからの15年間で4000万円はコンテナに投資)。魅力ある産地市場となることで、せりがますます活気づいて行き、買参人の入場も増加していきました(常時70~80名が来場)。せりは「買参人と生産者の車の両輪である」との社長の言葉のとおり、両者がせりによって活気づき、2020年は当初の目標であった50億円を大きく超えて66億円まで伸長しています。
宮澤社長就任後の三島青果の変化
2005年以前 | 2000年に34億円あった売上高が30億円を割込む |
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2005年 | 先代社長が急遽して宮澤 誠取締役が代表取締役社長に就任 |
2011年 | 39億円まで回復 |
2012年 | 市場を移転 |
2020年 | 66億円を達成(社長就任時から2.2倍に伸長) |
写真1.せりの様子
3.経営革新成功の要因(考察)
宮澤氏は、30億円の市場をせり人から取締役そして社長に就任して66億円の売上高を計上するまでに経営革新をおこないましたが、三島青果の経営革新の要因はどこにあったのでしょうか?筆者が感じた経営革新のポイントは以下の通りです。
経営革新 成功のポイント(考察)
視点 | 成功のポイント |
---|---|
戦略 | ・産地市場としての戦略が明確 ・せりの活性化 |
理念 | ・社員一人ひとりの会社 ・産地市場として、とにかく生産者を育成する |
顧客の視点 | ・生産者の出荷しやすい場所へ市場移転 ・自社コンテナ貸出 ・買参人(地域スーパー)が欲する地場品の増加(鮮度とタイムリーなお値打ち品の品ぞろえ可能) |
業務プロセスの視点 | ・産地のど真ん中に移転 ・せりが効率よくできる新市場 |
教育と学習の視点 | ・せりを通した人材育成 ・社長が現場で社員を育成 ・業績や貢献度で賞与に反映(年3回) ・個人商店化しない一体感 |
財務の視点 | ・50億円の売上目標から66億円まで伸長 ・毎月の品目ごとの売上管理 |
(1)戦略
戦略とは絞りこむことで、刀の刃が研ぎ澄まされて相手に深く刺さることができます。これが戦略の基本です。実際に宮澤社長のインタビューにおいては終始、「せりへの想い」が伝わってきました。宮澤社長が就任した2005年以降は、全国の市場では、量販店向けの相対取引の増加とせりの減少が進んでいきました。一方で量販店のバイイングパワーや産地の大型化で仕切りの足し増しや、利益率の低下も問題となっていきました。そうした中でも宮澤社長は、時代には逆行して生産者の方を見てせりを追い続けました。現在でも地場生産者の荷物は、ほとんどがせりです。他社が変化していった時に、自社はせりに特化することで、地域の中で魅力的な存在となっていきました。まさに差別化戦略が成功したと言えます。「シンプル イズ ベスト」という言葉のとおり、せりに特化したことで、地域の生産者にも地域スーパーも含めた買参人にも魅力的な市場になりました。同時に、社員が相対取引で仕切りに足し増しをすることもありません。余計な経費負担も抑えることができ、会社がやるべきことに集中できていると言えます。
(2)理念
宮澤社長は、実は社長就任の数年前に、役員登用の誘いを一度断っています。現場一筋できたので経営の知識はなく、自分はそのような立場には立てないと辞退しました。しかし、先代社長が急遽され、廃業の声も聞こえてきたときに、この市場を守るために社長を引き受けることとなりました。それでも就任当初は、株主の風当りは相当厳しかったとのこでしたが、それでも実績を示すことで株主に納得をしてもらえることができ、市場移転という大きな改革も実現することができました。
社長が社員に「会社は社員一人ひとりのものである」と意識改革をおこないましたが、社長がせり一筋で会社人生をささげてきたからこその言葉であります。卸売市場の企業価値は、財務諸表からは現金と棚卸、あと残っているのは建物と冷蔵庫、車両くらいなものです。しかし実際は、社員への日々の信頼から多くの生産者や買参人が荷物をやり取りしています。そう考えると市場の企業価値は「社員そのもの」であると言えます。地域の生産者を向いて、会社は社員のものという理念が経営改革の原動力になっています。
そして、「産地市場としてとにかく生産者を育成する」という会社の理念を全社員へ浸透させています。せりを成立させるためには地場の生産者の出荷が大前提です。通いコンテナ流通、庭先集荷と三島青果として元々取り組んできておりましたが、宮澤社長の就任以降この理念は確固となるものとなりました。
(3)顧客の視点
宮澤社長が徹底的に地域の生産者を向いた結果、市場を丸ごと産地の方に移転したという例は珍しいと思います。交通の利便性や地価の問題もあったと思いますが、結果、生産者の視点では大きな魅力となりました。農家にとっては、車で20分市場や農協の集荷場に行くだけでも、往復の時間と荷卸しも含めると60分~90分くらいになります。繁忙期には朝昼晩と3往復することも珍しくありません。出荷に掛かる時間が削減できたことは心理的にも大きかったと思います。自社コンテナは決して生産者から不足の声がないように手配をし、毎日の荷下ろしには社員が駆けつけ手伝いをおこないます。こうした当たり前の顧客志向が三島青果の強みとなっています。
また、もう一つ見逃してはならないのは、買参人に地域量販店を誘致してきた宮澤社長のトップセールスであります。現在では5,6社のバイヤーや地域量販店の店舗担当者がせりに参加しているとのことでしたが、八百屋さんだけの買参人だけでなく、量販店が参加することでせりが活気づくのは、読者の皆さんなら容易に想像ができると思います。
せりをすることで地域量販店にもメリットがあります。一つ目は、大手量販店との差別化ができることです。相対仕入で決まったチラシで品揃えするよりも、日々の鮮度、価格面でも魅力的な売り場が作れます。さらに、店舗担当者が自分で仕入れることで売り場への想いも加わることや、商品知識など人材育成にも効果があります。これは筆者の予想もありますが、地域量販店がせり仕入れをすることで業績が伸びてきていると思われます。でなければ、労務管理からのデメリットもあるため、継続できないと考えられるからです。現在では、量販店1社が常設事務所を市場内に設置するまでになっています。
(4)業務プロセスの視点
業務プロセスは、産地のど真ん中に市場を移転することで、劇的に変わりました。
地域量販店が仕入れ政策を地場市場のせりに軸足をおいたのも、まさに業務プロセスの視点です。新市場では、下段は市場本体が売り場となり、上段は駐車場と量販店の仕分場として活用しており、買参人に配慮した市場になっています。
多くの市場が相対取引にシフトしていく中で、その潮流に乗らず社内の業務プロセスをせりに特化していきました。
こうして考察すると、市場移転とせりという二つの要因が生産者、買参人、社員の業務プロセスの変化につながり、3者が共通の方向性に向かって強い絆を作っている点が大きな成功要因になっています。複雑な改善よりもシンプルなものほど壊れにくく強い。せりに特化した市場は多くても、市場移転も加えた例はなかなかないのではないでしょうか?毎日3者がいきいきと現場でせりをしている様子が目に浮かんできます。
(5)教育と学習の視点
社長は、今でこそせりには参加していないのですが、いまだに一部の品目は販売しているとのことでした。社長と社員の垣根は低く、面談など特別な場を設けなくても、いつも現場で話をしているとのことでした。せりを通して社員の自主性の育成に努めてもいます。社長は社員に叱責はしたことがなく、毎月の販売会議では、品目ごとの実績と今後について一人ずつ発表をさせています。
結果、営業社員27名は50代から20代までまんべんなく定着しています。近年は退職者は1名も出していません。数年前に宮澤社長の次男も同社に入社しています(ちなみに長男は、実家の兼業農業を継いで、県内で有名な若手グループとして活躍しているそうです)。
ここで筆者が感じるのは、社長がたたき上げで現場に近く社員の気持ちが分かることだけが、教育に成功している点ではないということです。この仕事は、品目ごとにそれぞれ販売環境もその時の相場状況も違うため、社員はみな孤独と闘っています。欠品して取引先から叱責されたり、損を出して会社に損害を出すたびに社員の心境は疲弊しています。人材が定着しているのは、「社長を中心として、全員でせりをする職場の一体感を作ることができている」からであると考えます。社員がせりで戦っているときも、社長や上司が横で見ていてくれる。自分は独りではない。こうした社内の雰囲気を作ることができていることが大きいと感じました。今の若者は、昔のような精神論や達成感で仕事を頑張るよりも、居心地の良さを重視するといわれています。市場の若者が定着しないのは、朝早いから定着しないのではなく、実は「個人商店化が招く孤独感」が問題ではないのかと考えられます。三島青果の人材育成は、シンプルに職場に一体感があることです。
三島青果では年3回の賞与を社員に支給しています。業績の評価が見える営業社員だけではなく、営業以外の社員の働きぶりも評価しています。夏、冬だけでなく年度末と年3回にすることで、社員のモチベーションアップにもつながる良い仕組みであると思います。
(6)財務の視点
「2.三島青果の経営革新」の内容のところで説明しましたが、社長が就任して改革を実行して15年の間に30億円だった売上高が66億円まで年2億円ペースで伸びています。当初投資前に50億円の目標を立てていたが、計画以上に地域の生産者からの出荷が増加しています。
上述のとおり毎月の販売会議で品目ごとの売上管理を実行しています。せり主体なので、相場の乱高下で粗利益率が変動しにくいのも同社の財務の視点での強みとなっています。
4.さいごに
当時就任6年後に39億円の売上の際に、10億円の市場移転を決断し実行をしました。株主からは大反対があったそうですが、上述の計算式で考えても、投資後に10億円売上を伸ばせなければ返済原資が出てこないことになりますのでリスクを考えると当然の反応であったと思います。今回の投資の成功の要因は、以下のとおりであると考えます。
経営革新 成功のポイント(考察)
1.投資時の社長の年齢51歳で投資を回収する覚悟があった |
2.老朽化した現設備への危機感と将来のビジョンが明確にできていた |
3.社長就任後の改革により毎年2億円伸長する手応えを数字で把握していた(仮説の検証) |
4.旧市場跡地の貸借料による営業外収益の確保できた |
1つ目は、投資には社長の年齢という実行時期が大きいと思います。仮に現社長が高齢で投資をしてから後継者に渡す投資計画ですと、投資計画や改革の実行に対して社長の覚悟が薄れてしまいます。後継者の立場でも、受け継いだ投資後の計画と自ら投資を決断するのとでは覚悟が違ってきます。45歳で社長に就任して、経営者としての経験を積んだこのタイミングは大きな要因であったと考えます。
2つ目は、危機感とビジョンが数字とともに明確であった点です。
大きな投資であるほど、将来への大局的な判断が重要であります。今の市場のままであっても、おそらく売上が戻ってきて、当面何の問題もなかったはずです。生産者はすぐにいなくなるわけではなく、青果物の需要も常に存在しています。しかし、宮澤社長は「このままでは、いずれじり貧になる」という将来の危機感を相当に持っていました。そして移転後の地域の生産者のサービスを強化すれば産地市場として50億円まで集荷できると明確に計算ができていました。
3つ目は、投資前に『生産者に近くなることで集荷が拡大する』という社長の仮説検証が、就任後の6年間で数字で証明できていた」ことです。財務上の根拠がないままに投資を実行し、投資計画通りにいかない事例を筆者は多く見てきました。駅前の好立地から畑のど真ん中に市場を移転するという大胆な投資計画の裏には、緻密な財務上の検証がされていたと思います。
4つ目は、旧市場があった駅近くの立地を賃料収入として、営業外収益を返済のリスクヘッジにできていることも見逃せないポイントであります。
現場一筋で経営の経験がなかった宮澤社長でありましたが、こうして振り返ってみると、投資実行前に抑えるべき数字と根拠が明確でありました。
今回の経営革新の事例では、市場を産地のど真ん中に移転し、顧客の視点を重視して業務プロセスを大きく変えました。投資の実行の前後で財務の視点でも綿密な投資計画を管理されていた点も見逃せません。成功の背景には、45歳の時に突然会社のトップに立った宮澤社長のリーダーシップによるところが大きいと思います。現在60歳を迎える宮澤社長に後継者について尋ねると、「自分が苦労した姿を下はずっと見てきているので、今のところ誰もやりたがらない」と笑って答えていました。社長の理念を受け継いだ50代、40代にどのようにバトンを渡していくか? これからの三島青果の新たな経営革新を期待したいです。
写真2.三島青果 市場全体
以上
※取材日:2021年6月
※本事例中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞および製品名等は、閲覧時に変更されている可能性があることをご了承ください。
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