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長印須坂青果市場の経営革新〜スマートフレッシュ加工による長期販売戦略〜

青果流通経営コンサルタント 本田 茂 氏

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1.はじめに

 皆様、こんにちは。このメールマガジンでは、全国の地方青果市場関係者の皆様に役立つ情報をお届けします。
 早速ですが、皆様市場の経営を取り巻く環境と市場の取るべき成長戦略を以下の図1.で示しました。

図1.アンゾフの成長戦略

 

 この図は、経営戦略の父と呼ばれた「アンゾフ」という方が提唱した企業戦略の考え方です。戦略を「市場(ここではマーケットという意味)」と「製品」という二つの軸で分類しました。
 それぞれの戦略を説明します。


  • ① 市場浸透戦略は、既存市場と既存製品です。ここで勝つためにはシェアをにぎって競争優位を築く戦略で、大手企業が広告を打つ、価格を徹底的に下げて取扱いを伸ばすなどが上げられます。まさに皆様は、各社ここでマーケットを伸ばすことに力を入れているように思います。

  • ② 市場開拓戦略は、既存製品で新規市場を開拓することです。新規市場とは地理的なものやセグメント(顧客層)を変えることを指します。青果市場が輸出する、青果市場が駅前で八百屋を出店する、などが上げられます。

  • ③ 製品開発戦略は、既存市場に新規製品を投入する戦略です。一般の企業は次々と新しい製品を開発していきます。この業界で言えば、カット野菜の製品工場を作る、量販店オリジナルの新品種を産地化する、などでしょうか。

  • ④ 最後の多角化戦略は新規製品で新規市場に進出する戦略で、一番リスクが高いですが、成功すると大きなリターンも狙えます。青果市場が不動産事業や物流センター事業を行うこともこの戦略に入るかと思います。

  •  かつて高度成長期からバブル期までは、人口が伸び経済が成長していたので、全国の市場は、市場浸透戦略をとっていれば取扱いと手数料は増加していき、安泰でした。少し厳しい言葉で言いますと、産地が高齢化し、経済が停滞してマーケットが縮小してきても皆様は相変わらず市場浸透戦略を取り続け、部下に稼げ稼げと追い立てているように見えます。異常気象により相場が暴騰すると業績が盛り返し、新たな戦略への事業進捗がたち消えてはいないでしょうか?

     経営革新とは、「企業が製品や市場の軸を超えて新たな戦略を見出すこと」(図1.②③④が該当)を言います。そこには新たな挑戦があり、当然投資やリスクがつきもので、発生する課題をクリアするために人材育成や業務プロセスの改善が必要となってきます。

     一方で、全国にはこうした経営革新にチャレンジをして業績を拡大または維持している市場もたくさんあります。このメールマガジンでは、経営革新に取り組んだ全国の地方青果市場の事例を紐解いて、どのような戦略で、どのように最初の一歩を踏み出しているか?これからのビジョンや戦略は何か?を皆様にご紹介できればと思います。
     前置きが長くなってしまいましたが、早速1社目の事例を紐解いていきたいと思います

    2.長印須坂青果市場の経営革新

     長印須坂青果市場は2002年(平成14年)に長印の子会社として設立され、R&Cホールディングスのグループ会社として産地市場機能を強化しています。直近5か年でも40億の取扱高は維持しており、経常利益率は例年1%以上を計上し全国の卸売市場の中でも上位に入る利益率を計上しています。

    長印須坂青果市場 概要

    名称 株式会社長印須坂青果市場
    設立 2002年(平成14年)8月1日
    代表 代表取締役社長 武田 浩明
    資本金 1000万円
    売上高 39億5100万円(税抜)(令和2年度)
    売上高構成 果実約70%(ぶどう、りんご、桃他)
    野菜約30%(高原野菜中心)
    従業員 40名(パート含む)
    出荷生産者 2000名

     まず同社では、ぶどうを除く全量で、専用コンテナを農家に貸し出しをしています。例えばりんごでは、中サイズのコンテナ12kgを使い、利用料は1コンテナあたり40円を仕切り時に控除。農家がダンボールを購入するよりは経費削減になり、規格選別の手間も省けます。りんごでは現時点市場で24万ケース所有。販売は、全量せり(ぶどうは相対)を基本として、シーズン時にはせりにかけられるコンテナが売り場に広がっています(写真1. 参照)

    写真1. りんご移動せりの様子


     長野県は7年に一度善光寺御開帳のある4~5月に約700万人が訪れますが、県内の果樹が出回る秋とは出荷時期がずれており、せっかくの観光需要に応えられず県外産のりんごを置くこともありました。この状況を打破するために、長年研究した「スマートフレッシュ加工技術」(後述)を使い、りんご長期保存をするために、2015年2000㎡の敷地に総工費約2億円をかけてプロセスセンターを建設しました。センターには、スマートフレッシュの加工室(1日400ケース処理)と仲卸向けの冷蔵庫(湿度設定可能)とパッケージ加工場を設置。
     このスマートフレッシュ加工により、仲卸、買参人の販路が広がることで、ピーク時に果樹の暴落を抑えることが可能になりました。りんごの例でみると長期販売が可能になることで、県内の観光需要だけでなく、取扱いでは青森県産に勝てなかった長野県の「シナノスイート」「秋映」「シナノゴールド」などの品種が、春先には酸味がまろやかになり、食味で優位性を持ち、首都圏の量販店での販売を年々伸ばしています。
     生産者にとっては、ピーク時に価格が暴落しては、いくら資材や労力が簡略化できていても再生産への意欲をなくします。また同社にとっても、せりで自分の力を発揮できず生産者の期待に応えられないことは社内の人材のモチベーションも落とすため、生産者、販売事業者、社内と三方よしとなっています。
     また、長野県は季節的にも冬の仕事が少なくなりますが、このスマートフレッシュ加工をすることで、9~11月にスマートフレッシュ加工作業、冬に選別とパッケージの仕事を生みだすことで卸売市場、仲卸の冬場の仕事を確保することもメリットになっています。
     さらに、今まで4月〜7月の県産果実の売上がありませんでしたが、現在では7月まで(前年は8月中旬まで)長期販売できるようになり長野県産りんごの周年販売が可能となっています。
     以上からスマートフレッシュ加工の需要が年々増えたため、2018年には第2プロセスセンターを設置し、加工の規模を2倍に増やしています。

    3.スマートフレッシュ加工とは

     スマートフレッシュ加工とは、以下の手順で行われます。


  • ① 収穫後3日以内の鮮度のよい果実を密閉された処理庫に持ち込む(1つの処理庫でりんごであれば最大200コンテナが収容)(写真2.参照)。

  • ② 特許申請された錠剤のスマートフレッシュを入れて空気を循環させて燻蒸処理を12~24時間行う。(写真3.参照)

  • ③ 出庫後は冷蔵保管する。湿度90%以上の冷蔵庫で最大2万ケースの保管が可能。

  •  CA貯蔵庫は出庫後に果実の熟度が進みますが、この処理は、果樹がエチレンの吸収を抑えるコーティングがされるため、出荷後も品質がキープできます。
     1室の処理で錠剤などで約5万円かかるため、処理はマックスの数量(りんご200ケース)で行います。令和2年は約100回の処理を行っています。
     現在は、りんご、なし、柿でこの処理が許可されています。今後、取り扱い品種を増やしたいが、薬剤会社が許可申請を行うことに費用がかかることが課題です。

    写真2. スマートフレッシュ加工処理庫にりんごコンテナを格納した状態

    写真3. 錠剤のスマートフレッシュを投入する様子

    4.経営革新のポイント(考察)

     今回の事例を冒頭の戦略で分類すると、りんごをはじめとした果樹製品を長期販売できる新製品に改良をした「②製品開発戦略」と言えるかと思います。筆者が感じた経営革新のポイントは以下の通りです。

    経営革新 成功のポイント(考察)

    視点 成功のポイント
    戦略 産地市場としての戦略が明確である
    理念
    (顧客の視点)
    挑戦の原点にある生産者、買参人のためにある市場の想い
    業務プロセスの視点 新製品を開発し、業務プロセスを大きく変えた
    教育と学習の視点 ・たたき上げの社員が役員になれるキャリアパスを作っている
    ・社長の教育方針
    ・長印グループの研修体制
    財務の視点 生産者2000名確保
    売上高40億
    経常利益率1%を目標管理

    (1)戦略

     近年の卸売市場の課題は、産地の減少、物流、量販店対応など様々な問題、課題を抱えるあまり戦略の方向性を見失い、あれもこれもになってしまいがちです。結果、戦略が中途半端になり成果が分散しています。
     長印須坂青果市場は、長印の子会社として産地市場として明確に位置付けて設立した市場です。となりの長印中野支社は、系統や生産者からの産地市場、地域の消費地市場、グループ内の販売網も活用する転送市場としての顔がありますが、須坂青果市場は、直接生産者からのコンテナ集荷を前提(ぶどうは除く)とし、買参人、仲卸に対してせり中心の販売です。品揃えも果実と高原野菜に特化しています。
     生産者にはなるべく経費の掛からないコンテナの状態で出荷してもらい、自社は移動せりにかけ、買参人や仲卸がその後に顧客のニーズに沿った商品化を行っています。そのため会社全体として、「生産者に集中をした事業展開」ができています。話を聞いていても終始「産地市場として戦略に迷いがない」明確であると感じました。これが同社の経営革新の成功のポイントの一つ目です。


    (2)理念(顧客の視点)

     いくら産地市場として迷いがなかったとしても、事例のないスマートフレッシュ加工に約2億を投じてセンターを建設することは、相当な挑戦であったと思います。実際、スマートフレッシュ加工については10年間の研究があり、自社や長印グループでテスト実施も重ねてきました。長野県という系統王国の中で競争要因もあり、「北信(長野の北部エリア)の生産者を育てる」という理念が設立当初の内藤武彦前社長時からあったと考えます。
     また、プロセスセンター稼働の際には、仲卸向けの冷蔵庫とパッケージ加工を建設していますが、自社が販売に乗り出すのではなく、買参人、仲卸が長期間販売できる環境を作ることを優先して考えています。
     平成30年の台風19号の災害では大きな被害を受けましたが、すぐに復旧の植樹活動など生産者支援も積極的に行っています。
     こうした「地域の生産者と販売先の利益」を先に考える「顧客志向の理念」が親会社である長印の倉﨑浩社長をはじめ会社全体に醸成されていることが、経営革新の成功ポイント二つ目です


    (3)業務プロセスの視点

     スマートフレッシュ加工施設の設置により業務プロセスが大きく変化しました。通常の産地市場であればピーク時には安値となり、生産者は年々減少していきます。オフシーズンは販管費を補える取扱量がないため赤字となります。こうした産地市場の課題を、果実を翌年の春先まで長期販売ができることで解消するため、ピーク時にスマートフレッシュ加工をして冷蔵庫に入れる。冬場は選別加工をしながら販売をして春先まで伸ばす。これが長期販売ができること、春先の食味の優位性を活かしてブランド化を図ることにつながっています。
     これ以外にも小さな業務プロセスの改善をしています。自社専用コンテナを生産者に貸し出すことも、個選品を段ボールで出荷する業務プロセスを変えたと言えます(もともとは長印本社方式を設立時から導入)。現地で生まれた新品種の苗木を提供して産地化を支援する取り組みも新たな改善です。今後は、全国で増加しているシャインマスカットの相対販売と独自の販売方法を模索するなど、いわば「業務プロセスのバージョンアップを積み重ねる社風と実績」が、今回のスマートフレッシュ加工という大きな改善の土台になっています。
     また、今後は、長印主導で現場の販売管理をシステム化することも決まっています。


    (4)教育と学習の視点

     実際に経営革新を実行するためには、役職員の意識改革と人材育成が伴います。インタビューでは、本社の研修以外に、「我が社はせり業務を通して『人として成長すること』を大事にしている」という武田社長(写真4.参照)の言葉がありました。社員にはせりをする前に生産者と話をして、自分の考えを話すように指導しており、そうなると自分の考えに責任が生まれます。同様に会社にも自分の考えを話すことができるよう社員の育成に力を注いでいます。
     もちろん他社同様、若手社員が販売先の確保で苦しむことが多いのですが、解決策として社長自ら若手社員に販売先をつないで販売環境を作ることを実践しています。若手社員には仕事を楽しくさせること、挑戦して失敗しても目的が明確であれば怒らないそうです。昔現場にいたとはいえ、いざ役員の立場になると、なかなか若手社員の気持ちに戻ることが難しいです。むしろ「俺の時代はこうだった」とかつての栄光から自分と同じようにと強要しがちです。そこを「社長、役員は若手社員の役に立つように自ら動く」という「現場との距離が近い」武田式の人材育成です。武田社長は現在、長印中野支社の支社長と長印本社の取締役と3つの顔を持っています。人を育て、自ら動く武田社長のリーダーシップが、社内で頼りにされ、現在の地位にいる要因だと感じます。
     また武田社長は、長印中野支社、長印本社を勤務してきた、たたき上げの社長です。今回のインタビューに同席して説明をしてくれた塩崎仁志取締役部長も、せり人出身からの役員登用です。卸売の市場は早朝出勤、現場仕事と決して楽な仕事ではありませんが、長年勤務した先に「一社員の自分でもがんばれば、武田社長、塩崎取締役のようになれる」とキャリアパスが作れていることは社員にとって大きなモチベーションとなります。また、定年延長雇用したベテランせり人には、「生産者の巡回業務」という「新たな働き方」も作っています。

    写真4. 武田 浩明 社長


    (5)財務の視点

     以上の経営革新から、高齢化の影響が著しい果樹を中心とした産地市場であっても、取扱いを落とすことなく生産者数を確実に伸ばしています。ちなみに農林業センサスから長野県の生産者数(経営体数)の推移をみると、2010年から2020年の10年間で64,289経営体から42,777経営体に減少しています。減少率は3分の1、経営体数にして2万以上が高齢化などで農業の継続ができなくなっています。生産者の減少状況はどの県も同じでありますが、このように業務プロセスを変えることで生産者確保に手を打っています。
     こうした成果から、須坂青果市場が過去5か年において40億円、経常利益率1%以上の実績を維持しているのは、財務上の目標管理も行ってきた成果です。

    5.さいごに

     経営革新は、何かをやれば必ず成功するものではなく、いくつかの要素(図2.参照)が相互に関係をして進められます。少ない資源でどこに注力を傾けるのか、戦略性や業務プロセスを変えて製品を改良することで生産者や販売先へのアプローチを変えること。改革を実行するためには教育と学習の視点も欠かせません。そして改革の根本にあるのは理念です。
     今回の事例は、長印の子会社として財務基盤があるから改革に成功したとは筆者は思えません。生産者の減少が著しい果樹産地、系統の力が強い長野県、立地上消費地も遠く販路も恵まれているとは言えず、厳しい経営環境下であると思います。その逆境を跳ね返す根底にあったのは、生産者が減少している現実を誰よりも危機感を持っていたからに違いありません。
     経営革新の実現には、経営規模や取り巻く環境の違いを他人ゴトとして受け止めるよりも自社の危機感をどれだけ切実に自分ゴトとして受け入れる方が重要なのではないでしょうか?
     今後、長印と長野連合青果は一つの会社となり業界でも大きな話題となりますが、その子会社である長印須坂青果市場の今後の活躍に期待しています。

    図2. 経営革新に必要な要素


    写真5. 長印須坂青果市場社員の皆様

    以上

    ※取材日:2021年6月
    ※本事例中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞および製品名等は、閲覧時に変更されている可能性があることをご了承ください。

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