第3章 自社の問題に対し行動を起こした沼津中央青果様の取り組み
前回記事「3-1.思い切って競売を廃止、「提案型営業」を実践〜」はこちら
3-2.取り組み2:生産者増加施策
STEP1:「高く売る」ではなく、「安く売らない」
販売形態の見直しの中で生産者から「高く売る市場」ではなく「安く売らない」市場として信頼や認識が広まっていった沼津中央青果様ですが、生産者を増やすという観点からも良い影響を与えていました。
近年開業しだした生産者の方は、サラリーマン経験のある方が増えているそうです。そのような生産者は年間所得を視野に入れて考える傾向があるといいます。
たとえば親子3代で一人500万円ずつ儲けるにはこの作物をいくらで売ったらいいのか?など、今日明日、一週間先といった短期的な視点ではなく、一年後やその先まで長期的な視点で考えるようになっているそうです。
高く売れることがあっても価格の変動の大きい市場より、いつも確実に利益が上がる市場に変わることで新しい世代の生産者にも選ばれるようになってきたそうです。
遠藤様は経験則として、小売りに対して高く売れば、その瞬間はいいかもしれないが必ずしっぺ返しのように安い時期がやってくるといいます。高く売れる日は3日、長くても1週間程度ですが、安い時期は1か月続く。商品を作る価格(原価)よりも安い相場が長く続けば、生産者も当然やっていけなくなる。それが生産者の抱えている不安です。だからこそ「安く売らない市場」であることを価値にしていくことができると考えました。
量販をはじめとする小売店とは、「生産者がやっていけなくなるような安い値段で売らないこと」を意識して交渉し、値段を決めています。
STEP2:生産者へ消費者が求める作物の生産を提案する
青果卸である沼津中央青果様には、付き合いのある小売企業や、種苗メーカーから新品種やこの先売れそうな商品の情報が集まってきます。こうした情報を活かして生産者に「売れる」作物を提案することも市場が提供できる価値だと考え取り組みをされています。
たとえば、お茶農家の転作支援の例があります。
沼津中央青果様がある静岡県は、言わずと知れたお茶の名産地です。一方で生産者が飽和していてなかなか売れ行きの伸びないという悩みを抱えている生産者も多いといいます。そうした生産者に向けて、種苗メーカーから提供してもらった種をもって別の作物を提案し、育てて貰うことで、沼津中央青果様の販売品目の増加と新規品目の出荷量をコントロールするという役割も担っているということでした。
この取り組みの背景には社会全体の高齢化や、世代の変化による食の嗜好の変化というものあり、今まで多く消費されてきた野菜の消費量が変化していった気付きというものもあったそうです。たとえば、今の若い世代と中高年層では味噌汁を飲む頻度も量も大きく異なると考えられます。
福嶋様はこの取り組みについて「農家さんは利益が取れる野菜を育てられます。我々はその作物を出荷してもらうことで、販売品目が増えて小売業者さんに売れる商品が増えます。 結果的に転作を応援することで市場・生産者双方の利益が相乗的に生み出されるというWin- Winの関係が築けていると考えています。」と話しています。
取り組み2についてのまとめ
出荷先の多様化や高齢化による生産者の減少に起因する入荷量の減少という問題に対し、生産者に市場としての価値を提供していくことを課題と設定しました。
沼津中央青果様では、安定した販売価格を実現するために「安く売らない市場への変革」、小売店や種苗メーカーとの繋がりを活かして「消費者の求める作物の提案」を 実施。
生産者に利益を提供し続ける仕組みを市場の価値として置けば生産者も入荷量も増やすことができるようになりました。
ここがポイント
・長期的な視点で利益がとれる価格で販売できるように、買い手と交渉し「安く売らない」ようにする
・市場だからできる生産者の利益となる情報提供と提案を行う
・生産者から信頼してもらえる存在になる
以上
※fudoloopメールマガジン(掲載日:2023年9月1日)
※本事例中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞および製品名等は、閲覧時に変更されている可能性があることをご了承ください。