青果市場業界でも、金融機関や専門業者を通じたM&Aで資本統合が行われるケースが徐々にみられるようになりました。
青果流通を含む食品業界は中小企業ほど経営が厳しく、経営悪化や後継者難に直面した場合、存続の判断に迫られます。ただ、スムーズな廃業ができずに倒産して取引先や社員に多大な迷惑をかけたり、それまで培ってきたノウハウ、取引先、そして人材などの「無形資産」を無駄にするケースもあります。
それを未然に防ぐ手段の一つが、M&A。自社より大規模な企業の出資を受け入れてグループ化あるいは合併することにより、不足していた設備投資が可能となるほか、社員の待遇が改善されるなどメリットは大きいといえます。
卸売市場を含む食品業界においてM&Aなど資本提携が進まないのは、「中小企業経営者にとって抵抗感がある」ことが最大の要因とされています。具体的には、「地元の名士」として代々続いた会社の株を売却・譲渡することを恥と感じたり、それまでの「オーナー兼経営者」から「雇われ経営者」になった場合の能力に自信がなく、「解任を恐れる」などです。
しかし絶対に避けたいのが、倒産か譲渡かではなく、これまで会社を支えてくれた社員とその家族の生活を脅かすことです。また、「会社を買いたい」というのは、多少は経営がうまくいっていなくても、その会社に魅力があるからです。「経営者が変わればうまくいく」かも知れませんし、何よりもそれ以上経営がジリ貧となって魅力がなくなってからでは、M&Aの話もなくなってしまいます。
さて、M&Aは、同じ卸売市場内の同業者同士が、自発的に行う場合もあるでしょう。しかし最近は、金融機関や専門業者によるM&Aも増えてきました。
まず金融機関では、基本的に融資先同士のM&Aを斡旋しています。ただ、窮状に陥った融資先を救って融資の回収を確実にするため、不利な情報を伏せて紹介する場合もあるといい、譲り受けた側が不満を持つこともあるようです。青果市場でも正確な情報が開示されなかったなどのため、いったん実施された大型M&Aが白紙となり、株を売却した方が買い戻すという事例もありました。
一方、自社の窮状を認識しながらも虚勢を張って、ぎりぎりまで周辺には漏らさない経営者も多いようです。意外ですが、同業者や所属組合どころか、「メインバンクにも言わない」こともあります。
その点で、「しがらみのない専門業者」が機能するケースが出ています。大きな特徴は、金融機関からの紹介は受けず、独自に顧客を開拓していること。前述の「しがらみのない専門家に相談したい」経営者からの相談が多く、多くの場合、着手金は不要で、手数料もオープンにしています。大手M&A業者では、「経験豊富なアドバイザーが譲渡・譲受企業間での中立的立場を貫き、想定される不利な情報も隠さず伝える」「譲渡企業に指摘すべき点は指摘し、また成約後もトラブルにならないよう精査し、不利な情報は譲受企業に隠すことなく伝える」としています。
ただし、M&A業者は成約した場合、売り手・買い手の双方から手数料を取ります。買い手はともかく、「少しでも負債を残さないようにして退任したい」という売り手からも2千万円以上は頂くので、少し高いなと感じます。
それでも多くのM&Aでは、「雇用を守れた」「従業員の給与水準が上がり、残業代がきちんと支払われるようになった」など、雇用面に関するプラス効果がみられます。従業員の待遇改善はM&Aを早く実施するほど早まるので、経営者の意識改革も求められます。
※fudoloopメールマガジン(掲載日:2023年4月21日)
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