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25.(最終回)市場が明日から実践で活かせること【全25回連載】

青果流通経営コンサルタント 本田 茂 氏

 これからの農業は、川上の人数が少なくなり、荷物を持っているものが強い時代にシフトしていきます。そのためこのメールマガジンでは、農家の実態や経営課題を紹介しながら、市場から農家への新しいアプローチを考察してきました。全体を通して筆者が伝えたい内容は大きく3つです。

農家の分類をする

 多くの市場では出荷された荷物の価格のみを注視し、どのような農家が出荷しているかという「人」を注視してきませんでした。これこそが、川上の変化への対応が遅れた要因ではないでしょうか。農林水産省が本格的農家と零細農家をいち早く分類し対応を変化させているのに対し、市場は今でも農家の分類ごとに対応を変えていないように感じます。2020年農林業センサスによると、過去10年間の販売規模別農家の変化では、販売規模1,000万円以下の農家数の減少が著しい反面、5,000万円以上の農家数が増えていること、増加している層は市場外流通が増えていることが見て取れます。今のままでは、減少していく層の中で各市場がパイの取り合いをしていくことになります。逃している5,000万円以上の層へのアプローチを本気で意識してほしいと思います。

農家の経営課題を知る

 販売規模が2,000万円を超えると、規模拡大、設備投資のための借金、雇用による固定費増加や労務管理の煩雑化など、農家の経営はさらに大変になります。家族経営の農家への支援も市場の重要な役割ですが、一方で、規模拡大している本格的農家への支援も今後重要になっていきます。本格的農家は、リスクを抱えながら経営者として奮闘しています。市場は彼らの立場をよく理解し、農家の分類に合わせた対応をしていかないといけません。これが、このメールマガジンで筆者が特に強く訴えたいことです。
 先日、大きな設備投資をして借金返済に苦労している若い経営者から相談を受けました。ある市場の価格が安くこのままでは経営が立ち行かなくなるため、市場に価格アップのお願いをしたところ、後日「あなたのことは、値段ばかり言う農家だと噂になっている」と市場の担当者から言われたそうです。噂にしたのは価格アップをお願いした市場しか考えられず、経営のリスクを背負っている若手経営者に対してもっと真摯に向き合えないものかと、大きな失望感を覚えました。残念ながら、市場は日々の相場の乱高下に追われ、農家の分類や経営課題などを考えている余裕がないのが現状です。しかしこのような対応により、販売規模の大きい本格的農家が市場から離れていることを理解してほしいと思います。

これからの農家への新しいアプローチ

 これまで紹介した農家への様々なアプローチ方法を参考に、市場の皆さんには農家へのアプローチの仕方を工夫してほしいです。
 すぐにできることは、出荷シーズンごとのデータを農家に提供することです。管内農家のデータを持っているという皆さんの強みをぜひ活用してください。また、研修企画もすぐに取り組める支援です。農家の課題を知るために社員も同時に受講させ、市場全体で農家へのアプローチに力を入れてほしいと思います。
 また、筆者が市場向けに研修をしていて驚くのは、皆さんにその場で発言を促してもすぐに立ち回れるところです。皆さんが出荷会議で発揮しているような、場の空気を読み、会議や懇親会を盛り上げ、全員のゴールを明確に着地させる話術という能力も皆さんの大きな強みです。その能力を活かせる支援方法として、農家の話し合いの間に入ることや相談相手になることも紹介しました。ぜひ、こうした支援も検討していただければ幸いです。

 最後になりますが、これまで紹介した農家の経営課題を自身の管内の農家と照らし合わせてほしいという想いで、このメールマガジンでは事例を細かく紹介してきました。事例に挙げた農家には、今後の市場の意識改革のために事例として紹介することを依頼し、快く許可をいただきました。ここに御礼申し上げます。

 最後までお読みいただきありがとうございました。またどこかでお会いしましょう。

以上

※fudoloopメールマガジン25号(掲載日:2022年6月17日)
※本事例中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞および製品名等は、閲覧時に変更されている可能性があることをご了承ください。

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