社長の行動力に期待
業務効率化へ IT活用も有効
1.逆境の地方市場から経営革新のチャンスをねらえ
こんにちは、青果流通のコンサルタントの本田 茂です。
地方市場の現状は、買参人の減少に加え、地元JAから分荷の減少、地場生産者の高齢化など、販売、仕入の双方が減少に歯止めがかからない状況にあります。
これからの地方市場の経営を考えると、何からどう手をつけていいのか分からない経営者も多いのではないでしょうか?しかし、逆境の中でも少しのアイデアと行動でこのピンチを脱却しようとしている経営者も存在します。経営革新とは、事業環境が変化する中で、商品や販売方法、ビジネスの仕組みを大きく変えるために事業戦略を見直し、全社で大きく仕事のやり方を変えていくこと。
今回、須崎青果、カネエイ様と鎌倉青果様の2つの事例から地方市場の今後の経営革新に必要なポイントを考察しました。
2.地方市場の経営革新のポイント
今回取材した須崎青果およびカネエイ、そして鎌倉青果に共通する地方市場業者における経営革新の特徴は、
①社長、役員の決断と行動力で改革を実行している
②農産物のブランド化や働き方の改善にも目を向けている
この2点にあると思います。
とくに規模の小さな地方市場の場合、社員は通常業務に追われがちで業務改革に取組む余裕がなく、意識も向きにくい。こうした中、今回の事例では、社長自らが補助金申請の書類作成や、ブランド化を進めるなど実務を積極的に行っている様子がうかがえました。
事業承継は経営改革の機会でもあります。
赤字が続いた鎌倉青果では、高橋社長が地場野菜をブランド化させると需要に供給が間に合わず、「価格が高くても買ってくれる」状況に逆転しました。
地方市場の現状は、買参人の減少に加え、地元JAから分荷の減少、地場生産者の高齢化など、販売、仕入の双方が減少に歯止めがかからない状況にあります。
また、須崎青果とカネエイでは、異業種出身の社長ならではの手法でブランド化や働き方改革に取組んでいました。「外から来た社長」の改革はたたき上げの役員や社員の反発を招きがちですが、営業経験の長い常務・専務も巻き込んでいるのも着目すべき点でしょう。
一方、地方市場が生き残るためには、地元の生産者に今まで以上に目を向けることが必要です。須崎青果、カネエイのように、生産者の労力負担を軽減するバラ流通や拠点集荷は今後重要な視点。しかし、施設整備には大きな決断と資金調達、関係機関との調整が必要で「すぐに設置できる」というものではありません。
3.生産者とのつながりを強化するツール「fudoloop(フードループ)」
起死回生で地場産野菜をブランドの立ち上げに成功
今回2つの事例企業が活用していた出荷予想共有アプリ「fudoloop」(フードループ)は、地方市場が課題としている「生産者との距離を近づけらける」点と、「初期費用が抑えられてすぐ着手できる」というのが利点になります。生産者は、自身の出荷した品がその後どのように扱われるのかを気にします。
そうしたニーズに応えようと、fudoloopのメッセージ機能を活用し、販売価格や仕切情報、当該品目の市場入荷量などを生産者にフィードバックするケースも見られます。また、販売店に売込むため、作付け・出荷計画を教えて欲しいとメッセージをやりとりする例もありました。
こうしたツールを使うことで、生産者と密なコミュニケーションを図ることができ、双方の信頼関係の強化にもつながりそうです。メッセージ機能は写真も送信できるので、圃場や野菜の写真を送ってもらい販売店に提供すれば、売場と生産者の距離も一層近くなりそうです。
4.導入は小さくはじめ徐々に大きく展開させる
fudoloop導入に当たっては、小規模な部会からが取り掛かりやすいかもしれません。小さく始めて活発に利用して成功モデルを作ってどんどん横に展開して広めていけば効果も大きくなることでしょう。
fudoloopを活用した業務改革の効果例
①地場生産者の囲い込みに活用できる
(市況見通しや販売状況を生産者により正確に早く伝えることができるようになる)
②遠方の生産者とのコミュニケーション強化
(メッセージ機能や市況連絡、写真添付機能を通じて電話とは別に遠方の生産者との交流を強化できます)
③社内の働き方改革
(生産者巡回や電話の時間を減少し、営業に活用したり勤務時間の短縮につなげられます)
今後、ITツールを自社の課題解決に向けて有効に活用できるようになれば労務環境の改善のみならず生産者サービスの向上にも結び付くのではないでしょうか。
※取材日:2020年10月
※この記事は2020年11月9日発行の農経新聞の取材をベースに作成しております。
※本事例中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞および製品名等は、閲覧時に変更されている可能性があることをご了承ください。