前回は、「大手の青果流通業者ほど努力している」と述べました。では、具体的にはどのようなことをしているのでしょうか?
一例を挙げますと、まず、業界に先駆けて人事評価制度を構築した会社です。そのきっかけは、バブル期に夜間の商品管理担当者の年収が、残業代などを含めて1200万円にも上ったことでした。いくら大手といえども、いわば何の役職も責任もない社員がこんなに高報酬となったことで、「これではいけない」と、人事コンサルティング会社のサポートを受けて人事評価制度、それによる給与・手当・歩合などを完成させました。さらに、「制度を作るだけでなく、社内で実践する責任者が必要」と、その人事コンサルの担当者をヘッドハントしたのです。
産地市場の卸では、市場に出荷する高齢農家に負担がかからないよう、庭先集荷はもちろん、市場に自分で出荷する農家の荷卸しをサポートする部隊を配置しています。また、昔からの定番の特産品だけでなく、他の品目の栽培を推進し、東京に営業所を作って大型実需者などに売り込んでいます。さらに、農協から離れた若手農家グループにアドバイスし、販路を提供しながら自社との取引を強めている卸や、地元以外の遠隔地で産地開拓を行い、現地の実需者に販売している卸もあります。
また、(これには色々な考え方があるでしょうが)出荷団体との商談で高い希望価格を提示されても、「それで受けます」と、後先の利益確保のことは度外視して、まずは商品を確保するところもあります。個選農家に対しても、常に他市場より高い仕切りとすることを会社全体で実践し、場合によっては後から仕切りを修正して他市場より高値にするというケースもあるようです。
仲卸はどうでしょう。いくつかの大手では、所属卸売市場ではスペースなどに制約があるため、市場外に自費でコールドチェーンを確保したセンターを建設しています。鮮度保持ができれば、朝早くからパッケージなどを担当するパートを集める必要はなく、人員が確保しやすくなります。まず午前にその日の2便以降で配送する商品を、次いで午後は翌日の定番商品を仕上げることが多いようです。大手実需者はパッケージなどを納入業者に依頼することが多く、同業者より優位になります。さらに、直荷引きがしやすいのも利点です。
さらに人材確保では、新型コロナウイルス下でいち早くウェブ上での会社説明会を強化し、以前より広い応募者(地域、学歴、年齢)を集めているところがあります。最近ではメタバース(インターネット上のバーチャル空間)で説明会を行うケースまでみられるようになりました。
このような事例を紹介すると必ず聞かれるのが、「それは大手だからできるのだ」という声です。確かに大手業者は資金も人材も豊富で、新たなことに取り組む余裕があるのは事実です。だからこそ、中小業者はそこであきらめずもっと取り組まなければ、差が開く一方なのですが。
※fudoloopメールマガジン(掲載日:2023年3月3日)
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