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青果市場のDX(2)〜DXは「夜明け前」 業界の課題改善に期待〜【全4回連載】

農経新聞社 鹿島 正美 氏

※農経新聞2021年6月28日付より転載

最近よく耳にする「DX」(デジタルトランスフォーメーション)。前回はそのステップとして、「アナログ・物理データのデジタル化(デジタイゼーション)」と「プロセスのデジタル化(デジタライゼーション)」による「デジタルシフト」の実現を経て、「ビジネスを変革し、新たな社会価値を創造する(DX)」がかなう―と説明した。青果市場業界では近年、基幹システムの入替えが進みつつあり、また産地の出荷予想情報のやりとりをインターネット上で行う例が見られるなど、「デジタルシフト」が進みつつある。ということは、青果市場業界のDXは「夜明け前」を迎えているといえる。デジタルを駆使することで、自社の収益アップや業務効率化のみならず、業界や社会課題の改善にもつなげることができそうだ。今回は3つの取組みを紹介する。

「EPARK」で市場の車列渋滞緩和へ

 東京・大田市場には、青果・花き・水産を含め1日当たり1万台以上の車両が入場するのではないかと見られる。その中で午後以降、深夜にかけては青果を載せたトラックが列をつくり、荷降ろしまで長時間に渡り待機するといったことが近年の課題となっていた。

 場内の車両混雑緩和とトラックドライバーの荷降ろし待ち時間削減を目的に、東京青果(川田一光社長)では、2018年に予約・順番受付システム「EPARK」(イーパーク)を導入した。多くの飲食店や病院などで利用され、京浜地区の青果流通業者では横浜丸中青果(横浜市中央卸売市場)等でも既に導入されている。

 東京青果に荷を運びたいドライバーは、事前(出発予定2日前から予約可能)に荷降ろし希望日時、車種、積載品目、積載量、自身の携帯電話番号を登録。当日は予約時間まで場外で待機、携帯電話に連絡が入ったら入場し、荷降ろしを行う仕組みだ。

 現在、同社への登録者数は野菜・果物合計4000件以上。1日当たり100件程度、繁忙期は150件を超える利用がなされている。ドライバーの多くは10㌧車で予約することが多く、同社の1日当たり入荷量のおよそ半数がEPARK予約によるものとなる。

 これにより同社の荷受体制も改善。入荷予定品目と数量、着荷時間を事前に把握できるため、荷降ろしから仲卸などに引渡すまでの効率的な物流オペレーションが組めるようになった。「ドライバーからは『出荷場から大田市場退場までの予定を立てられるようになった』という声を聞く」(同社)と、産地・市場双方にとってメリットが表れているようだ。

 場内の車列による混雑も、システム導入前と比べ少しずつ緩和されてきているという。ただ、予約が集中する時間帯はすべての希望者を受入れることはできず、積荷がベタ積みだと荷降ろしに時間がかかり、本来受入れられるはずの荷降ろし件数がショートしてしまうため、野菜部門においては専用の予約枠を設けて対応中だ。

 トラックドライバーの荷待ち時間短縮という当初の目的達成のために、産地には比較的空いている時間帯への予約分散や、ベタ積みを解消するため一層のパレット活用が望まれる。同社では「青果流通のパレチゼーション化とEPARKによる荷降ろし予約の組合せがスタンダードになれば、時間が読めず敬遠されがちな青果物配送も運送業界に受入れられやすくなり、新たな事業者も参入しやすくなるのでは」と期待する。

東京青果ホームページには、初回登録者向けの操作案内動画がアップされている

フードチェーンの情報一元化で商品提案強化

 わが国の食品ロス量は600万㌧(18年度)といい、政府ではその量を30年度までに2000年度比で半減させる目標を打出している。ただこうした話題になると、「ロスも消費のうち」との市場業者の声が聞こえてくる。しかし、単身世帯の増加や高齢化の進展など社会構造が変化している中で多くのロスが発生している事態は、ニーズに合った商品が提供されていないことの現れとも考えられないだろうか。

 21年1月~2月にかけて日本総合研究所(谷崎勝教社長、東京都品川区)など5社は、「ネットスーパーおよび消費者の家庭における食品ロス削減に関する実証実験」を行った。経済産業省の20年度委託事業による。IoT技術を使い、産地から家庭までのフードチェーン上の食品情報を個体別に追跡管理した。

 流通過程で記録した温湿度情報をもとに鮮度を可視化し、ネットスーパーでは鮮度に応じた価格で販売。消費者は好みの鮮度の商品を購入でき、さらには購入商品の消費タイミング、鮮度の推移にともなう栄養価の変化などを確認できる。

 産地から家庭までの情報が一元管理されるため、産地や中間流通、小売の関係者は購入された商品がいつ、何回に分けて食べられたのか、廃棄されたのかなどがわかる。つまり「食品ロスを防ぐ商品開発」が可能となる。

 日本総研では、「卸売市場業者も、今後はこうした消費者マーケティングに基づいた商品提案、販売戦略を産地、小売に提案していくことが望まれる」(リサーチ・コンサルティング部門の和田美野マネジャー)と提言する。

識別タグで検品商品管理を効率化

 「産地からの荷がRFIDやQRコードなどの識別タグが貼付されて出荷されたら、中間流通業者や実需者の検品、商品管理の手間が大きく軽減される」。こう期待を抱くのが東京促成青果(東京都中央区)の大竹康弘社長だ。同社は市場外卸業者であるが、グループに東京、大阪合わせて4つの仲卸を擁する。

 21年秋からはテクノロジー系企業、JAと連携し、実証試験を開始する予定。JAがイチゴとミカンの段ボールに識別タグを付けて出荷し、同社が荷受け、仲卸や量販店に供給する。

 まずは「タグがついた状態で荷が実需者まで届くのか」といったところから。とはいえ、これが進むと「(QRコードなら)スマートフォンひとつで検品、商品管理ができるし、精度も向上する」という。

 識別タグをつけた商品が川上~川下まで流れることで、トレーサビリティ情報や糖度などといった商品情報、流通過程の温度変化、消費者の購入情報などを把握することが可能で、「データを使いこなせば各プレーヤーで業務効率化に加え、新たなビジネスチャンスが生まれる」と見る。

 次回はDXや、DXが期待できそうな事例を紹介する。

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