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青果市場のDX(1)〜コロナ下で機運高まる 働き方、ビジネスに変革を〜【全4回連載】

農経新聞社 鹿島 正美 氏

※農経新聞2021年5月24日付より転載

最近よく耳にするようになった「DX」(デジタルトランスフォーメーション)。その意味は「新たなデジタル技術を駆使してビジネスモデルを変革すること」で、わが国では2010年代の後半頃からこの言葉が使われるようになった。そしてコロナ下の現在、多くの企業が働き方やビジネスモデルの変革に迫られていることなどを背景に、社会全体で機運が高まっている。青果市場業界もこの波に乗り、経営体質の強化とともにビジネスモデルの変革につなげたいところだ。この連載では4回にわたり、DXの基本から先進事例、DX化を後押しする農水省の事業などを紹介する。

 第1回目ではDXについての解説とともに、青果市場業界のDXの可能性を展望する。

 まずDXの必要性について。経済産業省は2018年に発表した「DXレポート」で、「あらゆる産業において、新たなデジタル技術を利用してこれまでにないビジネスモデルを展開する新規参入者が登場し、ゲームチェンジが起きつつある。こうした中で、各企業は競争力維持・強化のために、DXをスピーディーに進めていくことが求められている」と提言。

 さらに20年末に発表した「DXレポート2」では、コロナ下で「ITインフラや就業に関するルールを迅速かつ柔軟に変更し環境変化に対応できた企業と、対応できなかった企業の差が拡大している」とし、今後「デジタル競争における勝者と敗者の明暗が、さらに明確になっていくことになろう」と警鐘を鳴らす。

 とはいうものの、その実現には段階がある。

 まずは、「アナログ・物理データのデジタル化(デジタイゼーション)」と「プロセスをデジタル化(デジタライゼーション)」による「デジタルシフト」の実現を経て、「ビジネスを変革し、新たな社会価値を創造する(DX)」がかなう。

 つまり、「デジタルの導入=DX」ではなく、新たなテクノロジーを使いこなしたり、蓄積されたデータを有効活用することで業務のあり方を変革し、ビジネスに活かすことがDXにつながるといえる。

 DXをAmazonの例で説明するとわかりやすい。
 創業者のジェフ・ベゾス氏は1995年にインターネットによる書籍販売をスタート(デジタイゼーション)。その後、パソコンやスマートフォンの普及(デジタライゼーション)により、今ではネットで書籍を買うのは当たり前となっている(DX)。そして、同社が巨大企業に成長したことは言うまでもない。

図 DXへのステップ

DXで卸売市場の仕事を魅力的に

 では、青果市場業界ではどのようなDXが考えられるだろうか。 
 産地からの出荷情報、市場の仕切情報、仲卸への分荷情報などがデジタル化、ペーパーレス化ができたら、卸会社の営業員の在宅勤務がさらに進むかもしれない。そして在宅でのセリ参加ができるようになれば、早朝出勤の負担も軽減できそうだ。すでに花きの卸売市場では、インターネットによる在宅セリが行われている。

 仲卸段階では、得意先ごとの品目、規格、価格といった販売情報がデータベース化できれば、さらに戦略的な提案ができるかもしれない。ビッグデータを有効活用すれば、小規模企業でも大きなビジネスチャンスが期待できる。

 これらはほんの一例で、想像を超えた変革もあり得る。変革が進めば、卸売市場の仕事は今よりはるかに魅力的になるのではないだろうか。

 ここで注目すべきは、Amazonの例を含め、DXの実現には「連携」が不可欠ということ。自社の部門間、サプライチェーンの各段階、同業他社もあり得る。これまでこうした連携が進まなかったことが、市場業界のDX推進のネックとなっていたようだ。

 農水省食料産業局卸売市場室長の金澤正尚氏は、「青果のサプライチェーンは産地~卸~仲卸~実需者などとプレーヤーが多い。デジタルの導入状況は各社で差があり、業種間や同業者間などで連携しにくい状況にあった」と指摘。そのうえで、「国産青果物では約8割が卸売市場を経由しており、市場の役割は今後も重要。DX、そしてその前提となるデジタル化を当省でしっかりと支援したい」とする。

 農水省が発表した「農業DX構想」では、その目的を「消費者ニーズに的確に対応した価値を創造・提供すること」と位置付けている。それにはまさに川上から川下の関係者が連携し、「データによるバリューチェーンの構築」が不可欠だ。

 農水省では農業DXの推進に向け、卸売市場業者を含む流通業者への支援を充実させる。産地から実需者までがデータ連携し、ペーパーレスをめざす取組みなどへの支援を行う予定だ。これらの事業の内容については今後紹介する。

 次回はDXや、DXが期待できそうな事例を紹介する。

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