ポイント
なぜ情報発信が必要なのか?
・生産者は有利販売につながるための有益な情報を求めている
・高齢化や人手不足が進む中、市場の役割は「情報提供」にシフトしている
情報が変える生産者の意思決定
①利益直結型情報 → 「市場での価格は?加工向けになる?」
②経営思考型情報 → 「経営改善のヒントは?他県の動向は?」
③栽培支援型情報 → 「農薬の変更や資材の特売情報」
情報提供が生み出す「関係性」の強化
・情報を得た生産者は「意味を考え、質問し、関係が深まる」
なぜ情報発信が必要なのか?
りんご生産者の立場からすれば「製販分離し、りんごを卸売業者に託す」わけですし、買参人からすれば「卸売業者に集荷の役割を担わせている」わけです。卸売市場を利用する生産者・買参人は、任意のタイミングで上場し、任意の価格で競り落とすといったように、あくまでも自己責任が伴います。そして、りんご業界でも高齢化や人手不足が影響を及ぼし始めています。
このような環境の中で、生産者・買参人が自己判断し、有利販売につなげられるよう、有益な情報を提供することが、卸売業者に求められる価値(バリュー)だと考えます。そして、これを実践することで「より高く(品質と価値を維持し)、より多く(集荷する)」というりんご産地市場の使命(ミッション)が遂行できると確信しています。以下に、①②③型の情報発信の必要性についてご説明したいと思います。
情報が変える生産者の意思決定
①利益直結型情報
①の利益直結型情報とはすぐに利益に結びつく市場価格や販売情報のことです。生産者には①の利益直結型情報が最も喜ばれます。
例えば、市場に上場すれば値段がつくのか? あるいは加工品の価値しかないのか? といった判断基準は、市場担当者が毎日の競売でつかんでいる鮮度の高い情報です。しかし、この情報をりんご生産者全員にタイムリーに提供できていませんでした。理由は、伝達手段が旧態依然の「産地を回って一軒一軒説明」「電話で一件一件伝える」「出荷組合長から組合員に知らせてもらう」などがメインだったからです。さらに、りんごの色目などの情報は口頭では正確に伝わりません。ではどうすべきか? 答えは明白です。ICTというと大げさですが、スマホとLINEとfudoloopなどのツールを駆使すれば解決しますので、私が赴任してすぐに導入を決めました。
②経営思考型情報
②の経営思考型情報とは、すぐに利益につながるものではありませんが、りんご生産者自身が自社農園の経営のヒントとし、有利販売につなげるための情報のことです。(買参人にも同様の情報がありますが、ここでは割愛します)
具体的には、りんご生産者の推移、他県の状況、労働生産性の向上に関する技術、労働力問題のヒント、品種とマーケットなどが挙げられます。(将来的には、企業理念や経営基盤の知識も持ってほしいと考えています)
赴任当時の卸売市場内のディスプレイやHPでは、上場数量、関連会社の上場数量、主要品種の数量、そして大まかな相場情報が発信されているだけで、先に述べたような「自ら考え、有利販売につながるヒントとなる情報」としては不十分だと考え、改善しました。なお、市場側から提供する情報のどれが響くのかは分かりませんので、さまざまな方法を試しながら情報を確定させていきました。有益な情報を開示すると、生産者や買参人から好反応をいただくため、その効果は一目瞭然です。なお、この対極にあるのが「自分で判断するのに必要な情報や数値が不足した環境」です。生産者であれば、市場に預けっぱなしの状態、会社内でいえば「指示待ち人間がはびこる状態」のことだと思います。
③栽培支援型情報
③の栽培支援型情報は読んで字のごとく、りんご栽培に関する情報や、栽培に使用する資材等の特売情報などです。
もちろん、りんご生産者はりんご作りのプロです。私たち卸売市場の人間がりんご作りに意見するなどおこがましいので、あくまでも周知させていただくという立ち位置での発信となります。例えば、農薬の使用条件の変更などは、重要であり何度周知しても迷惑にはなりませんし、農業資材も、少しでも使いやすく安価なものであれば、どんどん紹介し、貢献したいと考えています。
情報提供が生み出す「関係性」の強化
これら3種類の情報を充実させることで、津軽りんご市場と生産者・買参人とのコミュニケーションや関係性が強化されると期待しています。“情報”を提供すると、関心のある人は「この情報の意味するところは何なのか?」を考え始め、情報提供元である弊社に問いかけ、一緒に考察する機会を持つようになります。これは、密接な関係性を築く足掛かりとなるため、とても重要なことです。ちなみに、コミュニケーションを図る手段には、対面、電話、書面、ICTなどさまざまあります。今流行のICTでなければならない、というわけではありません。将来的には、テレパシーでコミュニケーションがとれるようになり、その他のツールは不要になっているかもしれませんね(笑)。
“コミュニケーション”とは、情報や気持ち・感情を相手と交換する作業ですので、一方的に伝えるだけのものではありません。そういう意味では、現在の情報発信体制だけでは不十分なのですが、とりあえず今は、こちら側から相手側への発信を強化していこうと考えています。fudoloopにもこの機能が備わったと聞いていますので、活用できればと思っております。
ちなみに、DX(※)の本質とは「情報(知恵や数字)をより効率的に知ることで、その人の行動が変わり、結果として他者(他社)との関係性が大きく変革していくこと」です。情報が少ない時代は、意思決定の仕組みが人それぞれで属人的でしたが、情報が適切に行き渡れば、各人の行動基準がデータで判断できる仕組みへと変革できます。すなわち、「事実(根拠がある情報)を基にしてコミュニケーションがとれるようになる」というわけで、データを取りながら仮説・検証して改善していくこととなります。
以上、これまで述べてきた情報を適宜提供することで、強いりんご生産者の育成に少しでも貢献し、りんご産業の維持・発展に寄与できればと思っております。
生産者に提供する情報分類別「目的・内容・効果」
【用語補足】
※DX:読み方はディーエックス。デジタルトランスフォーメーションの略称。
以上
※fudoloopメールマガジン(掲載日:2025年4月11日)
※本事例中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞および製品名等は、閲覧時に変更されている可能性があることをご了承ください。