ここからは、農家への具体的なアプローチ方法について解説していきます。
過去に掲載していた「地方市場 経営革新事例 メールマガジン」でも紹介しましたが、活躍している地方市場では、コンテナ流通やバラ出荷による労力軽減、拠点集荷や徹底した農家巡回など、農家の立場に立った取り組みを行っています。今後もこのような取り組みは有効であると考えますが、以降では、今まで紹介したもの以外の具体策を紹介していきます。
筆者は売上が1,000万円を超える本格的農家や法人化した農家の経営相談に乗っていますが、発展しているように見える農家でも、実は自らの収量などの数値を把握できていないケースが多々あります。
農家では、10a(アール)あたりの収量(kg)を重視する方が多いです。10aとは、昔の田んぼ1枚(約1,000㎡)のことで、皆さんにとっては1反(たん)という単位で呼ばれる方が馴染みがあるかもしれません。(稲作では1反あたりの俵数で、花卉では坪(3㎡)あたりの本数などで収量を把握することもありますが、ここでは割愛します。)
農家が重視する1反あたりの収量は「反収」と呼ばれ、収量を栽培面積で割ることで求められます。しかし農家では、日々の出荷量は市場やJAなどに出荷伝票を書くため把握しているものの、それらを集計しない傾向にあるため、月ごとや出荷シーズンごとの出荷量を把握できていません。出荷量が把握できていなければ、当然、正しい反収を把握することもできません。
出荷データを提供する
そこで市場ができるアプローチが、出荷データの提供です。実際に、筆者が経営指導している農家では、信頼している地元市場が月ごとの集計表を出してくれているそうで、そのことをとてもありがたがっています。
下表では例として、出荷シーズンごとのデータのまとめ方を紹介します。
図 出荷シーズンごとの売上分析表の例
農家は確定申告をする際に売上を把握することが多いです。そして収量を把握することで、2つの数値による分析ができます。1つは収量を栽培面積で割った反収(kg/反)、もう1つは売上を収量で割った単価(円/kg)です。どちらも農家の経営上重要な数字です。表のように前年比を算出すれば、この数字を元に次の出荷シーズンへ向けたPDCAサイクルを回しやすくなります。
もちろん、今の農家は販売先が市場だけではありませんので、農家が各自で各販売先の収量を合計してから反収を出す必要があります。そこで、ターゲット農家に対しては、市場出荷以外の収量も聞いた上で特別にこの表を市場が作成するというのもよいでしょう。もちろん、市場出荷分だけでもデータが提供できれば、農家への有効な支援になります。この表をたたき台にして、次年度の目標反収や単価を話し合うことで、農家への出荷要請も具体的になっていくはずです。
農業経営指標を提供する
もう1つ、農家に提供すると喜ばれるデータが「農業経営指標」です。農業経営指標とは、作物ごとに収支や労働時間に対する所得率などの指標が記載されているもので、地域の情勢や主要作物を反映する形で、各都道府県やJA、農業改良普及センターなどが作成および公表しています。多くの農業経営指標では1反あたりの数値を公表しており、農家にとっても関心の高い情報です。
そのため、市場もこのデータを定期的に入手すべきです。そして、その地域の農業経営指標と対象農家の収支比較などを書面で提供し、それをもとに次の出荷シーズンの販売計画の立案をするなど、もっと農家の経営に入り込んで話し合うべきだと考えます。
市場に知ってほしい農家アプローチ実践のためのワンポイント
出荷シーズン終了後に、収量(kg)、反収(kg/反)、単価(円/kg)、売上(円)の前年比のデータを農家へ提供し、それを見ながら次の出荷シーズンの販売戦略や出荷要請を話し合いましょう。その際、農業経営指標を一緒に提供するとより具体的な提案ができます。
※fudoloopメールマガジン18号(掲載日:2022年4月22日)
※本事例中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞および製品名等は、閲覧時に変更されている可能性があることをご了承ください。